医療広報

 医療広報の収支決済
      
                   ブーグロー「ホメロスと案内人」

医療広報の収支決算(上)~年間広報予算は「100万円未満」と
「500万円以上」が拮抗

病院広報誌制作は「外注」から「内製」へのロードマップを作ろう!

2013年07月17日
医療広報のコストやアウトカムを検証した
アンケート調査を実施

現在、わが国の多くの医療機関は、ホームページや対外広報誌等を通じて、患者やステークホルダー(利害関係者)に対して広報・広聴活動を実施している。ただ実際にこうした活動を進めるに当たって、どの位のコストが必要で、どの程度の人員が要るのだろうか?現実に医療広報を展開することによって、どのような成果が表われているのか?

こうした調査は従来、あまり実施されることは無かったのだが、医療機関の企画広報担当者の育成や、医療広報の機能評価事業を行っているNPO法人「日本HIS研究センター」(石田章一代表理事)が、最近、会員医療機関に対して、医療広報のコストやアウトカムに係るアンケート調査を実施した。対象医療機関数は139施設と多くはなく、普遍的なデータと言うには無理があるものの、あまり試みられることのない調査であり、公になる機会が少ないと思われるので、今回と次回の2回に分けて紹介してみたい。なお200床未満の施設の中には、一部小規模診療所も含まれていることを付け加えておきたい。


約38%が「コンプライアンス、職員通報制度」を導入
職員行動指針・規範への位置づけが必要


図1と図2は、医療機関で実施している「広報活動」と「広聴活動」の内容であるが、前者に関しては予想されたように「ホームページの運用」が最も高く、約95%を占めている。
続くのが「院内掲示版の設置」(約82%)、「案内パンフレットの設置」(約80%)と続き、「対外広報誌の発行」(約74%)は第4位。「院内広報誌の発行」(約63%)は第6位である。印刷メディアの活用が60%を超えている結果から、インターネットを中心に医療機関の情報提供ツールが多様化する中でも、未だ紙媒体に対する信頼性の高さが伺える。特に人口の高齢化が進む地方の病院においては、コンピュータに不慣れな高齢患者にとってホームページよりも紙媒体の方がアピールしやすいという一面はあるだろう。日本でネット書籍が巷間騒がれるほど、実際には定着していない現象と、通底する部分もあるように感じられる。同研究センターの会員病医院が比較的「広報」への意識の高い施設が多いことを考えると、実際にはこれらの結果は、少し割り引いて考えた方が良いのかもしれない。



「病院祭りなどのイベント開催」(約47%)、「野外広告(野立・街角など)の実施」(約42%)、「雑誌・新聞広告」(約40%)等が下位にあるのは、これらの活動がコストに比べて、実際の目に見える効果が乏しいという現実を示している。

広聴活動(図2)については「院内ご意見箱の設置・回答」(約86%)と言うアナログ的な取り組みが最も高い一方で、「利用者満足度調査などの実施分析」(約75%)、「職員満足度の実施分析」(約72%)等の、マーケティング的な要素の高い活動に対しての関心の高さが伺える。逆に「外部(第三者)監査組織の設置」(約18%)、「患者・地域広聴会の開催」(約20%)等、外部視点を導入したコンプライアンス改善に積極的な医療機関は未だ多くはない。ただ「コンプライアンス、職員通報制度」(約38%)を導入している医療施設が53病医院も存在し、大企業と同様にCSR(社会的責任)を重視する方向性が見えつつあることは評価したい。「コンプライアンス、職員通報制度」が漠然とした精神論や理想論ではなく、職員の行動指針や行動規範に実際に位置づけられているかどうかが、重要であることは指摘しておきたい。

昔に比べると病医院の「広聴」活動への意識は進化してきてはいるものの、病院のシステムの中に組みこまれた、具体的な実践活動が今後の課題であると言えよう。



広報担当者は「2~4名未満」が多数派
人材育成も広報誌制作の一つの目的


さて図3は、「広報を進めるために常時配置している人員数」であるが、「2~4名未満」という施設が圧倒的に多く、「400床以上」の病院では16施設、「200~400床未満」では14施設、「200床未満」でも23施設もある。「1名未満」で対応している所も22施設ある一方、「6名以上」との回答が18施設も存在し、施設間の開きが大きい。「N/A(NO ANSWER)」が5施設あるが、医療広報にマンパワーを割くことが出来ない小規模診療所や、そもそも「広報」自体に消極的な医療機関ではないかと推測される。

「広報を進めるために常時配置している人員」が何を意味するのかは、各々の病院の広報担当者の機能や役割によって大きく左右されるところであり、内実はこのアンケート調査からだけでは見えにくい。例えば、「専従あるいは専任の広報部門が存在するのか」「各部門から選抜された広報委員会のメンバーがその役割を担っているのか」「理事長秘書等、広報窓口の人間が単独で対応しているのか」「医療法人本部中枢に「広報」担当者が位置づけられているのか」など、各病院の事情によって大きく異なってくる。このアンケート回答者の多くは、主に広報誌やインターネット等の企画や制作に関与するスタッフを想定しているように感じられる。




図4は「広報活動・広聴活動」の年間予算だが、「100万円未満」と「500万円以上」が拮抗し、中間が少ないという、かなりバラツキのある結果となっている。どこから、どこまでを広報予算に入れるのかは各病院で異なるが、恐らく求人広告や求人広報の予算をここに含めると相当な額になるため、求人関連を広報・広聴予算に計上している病院はほとんどないと推測する。そうすると広報予算の大きな割合を占めるのは、院内・院外広報誌やホームページ等の編集・制作費ではないかと想像する。

この他、筆者が取材した限りにおいては、不定期に発生する病院のパンフレットや記念誌等の制作・編集費用は、広報・広聴予算とは別枠で予算取りすることが多いのが現実。これらの制作には大きな費用と手間がかかるため、事務長らが中心となり、新たに病院内でプロジェクト・チームを立ち上げ、広報・広聴活動とは別個に作業を進めるケースが通常のように思われる。




さて広報活動の軸となる対外広報誌は、いずれの規模の病院も年間発行回数は、「3~4回」と言う施設が圧倒的に多い(図5)。大抵は季刊誌という形で発行されている。月刊化はコストの問題や編集の大変さがあるため、また季節感を感じさせる季刊誌の方が、患者にとっても好まれるというところだろう。編集・制作については、内製化か外注化かによっても、病院内の作業や費用は大きく変わってくる。内製と外注のどちらが良いのかは、広報担当者の熟練度や病院の方針に左右されるため、一概に言えるものではない。


ただ広報や雑誌編集の専門家が病院にいる場合は別として、職員に編集制作を教える人材が不在の場合は(大抵はそうだが)、最初の段階では外部の編集プロダクションやフリー編集者らの協力を得ながら、病院の広報委員会のメンバー達と協働で作っていく形が良いのではないだろうか?まず外部の専門家に筋道を作ってもらって、病院職員が自立して広報誌を作れるようになった段階で、徐々に内製へと切り換えていく。いつ頃を目途に内製に移行するのかのロードマップを描き、計画的に進めていくことが求められる。

一方で、広報誌制作の指揮管理をするスタッフがいないため、外部のプロダクションに任せきりにしたところ、外注先に振り回されてコストばかりかかり、期待したレベル以下のものしか出来なかったとの失敗例もよく聞く。信頼できる外注先を選択する「眼」を養うことも、広報担当者には肝要と言える。広報誌制作の一つの目的は、職員の人材育成という見方も出来るのである。

~次回に続く (医療ジャーナリスト:冨井淑夫)

医療広報の収支決算(下)~対外広報誌定着すると「病院の顔」に

理念の展開やブランド化、歴史づくり等、多様な役割担う

2013年08月20日
広報活動はチームアプローチ
情報感度の高い職員が多いほど盛り上がる

前回に続き、「日本HIS研究センター」が会員139施設に行ったアンケート調査を元に、医療施設における広報活動の現状と課題について考えてみたい。前回にお伝えしたように、病医院が患者向けに発行する対外広報誌は積極的に取り組んでいる所でも年間4回位が平均で、季刊誌の形態で編集・発行されている施設が多いようだ。


対外広報誌の企画内容、主に記事構成(図6)であるが、一番多いのは「病気に関する記事」で、96施設と約69%を占めている。「Dr・職員紹介」(約66.1%)、「診療サービス案内」(約59%)、「トップのあいさつ」(約55.3%)が次に続く。「理念・基本方針の紹介」は約54%と意外に高くはないが、理念や基本方針は多くの場合はホームページや院内に掲示されていることが多いので、敢えて対外広報誌で紹介する必要がないと捉えているのかもしれない。確かに少ないページ数の中で、毎回、理事長のあいさつに加えて、同じ理念・基本方針を入れるのでは誌面がマンネリ化し、他に取り上げる記事が制限されてしまう。病院の理念や基本方針、トップのあいさつ等はパンフレットや院内広報誌に掲載し、対外広報誌では病気や健康情報、ドクターやスタッフ紹介等、身近な話題を中心にして使い分けた方が、読者には親切なように思える。一方、院内広報誌の記事構成(図7)で一番多いのは「Dr・職員紹介」(約46.7%)、「イベント情報」(約42%)、「トップのあいさつ」(約40%)、「人事情報」(約37%)と続く。



一般企業のように専従の広報担当者を置いている施設は少ないので、広報誌の企画・編集に携わるのは大抵の場合、各部署から選抜された広報委員会や、編集委員会のメンバーになる。ただ皆、他に優先すべき仕事を持っているので、当然、職員から片手間でやるのは難しいとの意見は出るだろう。しかし看護師や検査技師等の医療専門職であっても、探せばクリエイティブな仕事に興味のあるスタッフはいるものだ。トップダウンにより、各部署のバランスを重視して同委員会を招集するよりも、広報誌の制作や広報活動に興味のあるメンバーが自発的に集まり、編集長(リーダー)を決めて、クラブ活動のような感覚で進めていく方が、より良い結果が生まれるのではないだろうか。一定規模の病院には多くの職員がいるので、文章を書くこと、写真撮影やイラストを描くのが得意な“一芸職員”も必ず存在するはずだ。そもそも望んでもいない職員が広報委員に選ばれ、嫌々、編集会議に参加しても、ユニークな企画が生まれるわけがない。

「日本HIS研究センター」の石田章一代表理事は「広報活動はチームアプローチであり、情報に感度の高い職員が多いほど、広報活動は盛り上がっていくもの」と語っている。




広報・広聴活動により地域連携は進展
センスある広報担当職員の養成が課題

同アンケート調査に戻り「実施した“広報活動”、“広聴活動”により得た成果」(図8)を見てみよう。最も大きな成果としては、広報への「理解や認識が進んだ」(約45.3%)と最も高く、「地域連携が進んだ」(約41%)が次に高かった。広報・広聴活動の積極展開は、地域社会との協力・連携関係の強化にも役立っているようだ。現実に地域連携室のスタッフが、広報業務を兼務している民間病院も存在し、相乗効果が生まれているケースも多い。
「知名度が向上した」(約40%)、「リクルートに貢献した」(約28.8%)、「組織内のコミュニケーションが向上した」(約22.3%)等の副次的効果も見逃せない。

「今後、達成すべき広報的課題」(図9)については、「認知度の向上」(約54.6%)が第1位で、「広報戦略の策定」(約52.5%)が2位に続き、広報戦略に関する課題を抱えている医療機関が半数以上を占める。一方で「広報委員会の規定や運営」(約19.4%)、「広報マニュアルの整備」(約16%)を挙げている医療機関の割合は低く、あまり大きな課題としては浮上していないようだ。

「広報活動を進める上で不足している要素」(図10)としては、「担当者の経験能力」(約49.6%)、「専門的な編集技術や感性」(49.6%)が拮抗しているが、やはり広報担当職員の養成が重要な課題であることが分かる。次に続くのが「院内の意識や理解」(47.4%)で、広報マインドを全職員で共有化して、チームで動いていくことの難しさを感じている病医院が未だに多いようだ。



 





公的病院の配布する対外広報誌が
近隣商店街の春夏秋冬の行事として定着

さて医療機関の対外広報誌は「作ること」が目的ではなく、「いかに配布するか?」、「どう活用するか?」を同時に考えていくことが大事である。配布の方法を何も考えずに、受付やブースに置いておくだけの受け身的な姿勢では、相当な部数が余ってしまうことになりかねない。例えば病院が健康や医療をテーマにした講演会を開催して、講演会の内容と連動した記事を掲載し、そこで一定部数を配布するとか、イベントと連動させた配布の仕方を考えるのも一つの方法だろう。広報誌を使って「何をやるのか?」を考えるのが重要である。

地方のある公的病院では、季刊の広報誌が完成すると病院と近接する商店街に一定部数を配布し、それが慣習化して商店街の春夏秋冬の行事にもなっている。買い物客が病院の広報誌の完成を、を楽しみにするわけだ。こうした配布方法が取れれば、商店街のお店情報やグルメマップを掲載する等の、新しい企画にもつながってゆく。誰が読んでいるのかが明確になれば、次の企画も立てやすくなるはずだ。

いずれにせよ病院広報誌は単なる情報ツールではなく、定着していくと「病院の顔」になっていく。病院の理念の展開やブランド化、更には継続的に発行することで、病院の歴史を作ることにもなるので、様々な役割を担っていることを理解して頂きたい。

(医療ジャーナリスト:冨井淑夫)