ブーグロー「ホメロスと案内人」
病医院広報最新事情【1】-「求人」広報の戦略的展開
医師・看護師の新規採用に向けて
2012年12月06日
メディア・ミックスの活用に言及
一般企業出身者の台頭目立つ国公立病院
筆者は11月2、3日の両日、長野市で開催された「HISフォーラム2012」を取材する機会を得た。同フォーラムは年に1回、全国各地で開催地域を変えて行われており、HIS企画広報塾やHIS広報プランナーの養成等、医療機関の企画広報の啓発活動に注力してきたNPO法人「日本HIS研究センター」が主催するもの。2012年度は前回(2011年)のプレゼンテーションでBHI(Best Healthcare Information)最優秀賞を受賞した長野市民病院(竹前紀樹院長)との共催によって開催され、日本全国から320名を超える病医院の企画広報担当者が集結し情報交換を行った。
同フォーラムの眼目となるのは、病医院広報担当者が発表する「全国病院広報研究会事例発表会」。今年も第一次審査を通過した日本全国13医療機関の広報担当者が発表し、秀でた活動やプレゼンテーション内容に対して、BHI賞の各賞が授与された。今回の発表は総体的に極めてレベルの高いものが多く、広報ツールに関しても一般的に普及している病院広報誌、ホームページだけでなく、ブログ、ツイッタ―、YouTube、メールマガジン等、多様なツールの活用についても言及され、メディア・ミックスという概念が各病院から提示されたのが印象的だった。医療広報も時代とともに、大きな深化を遂げているのだなと痛感させられた。
2011年の東日本大震災で被災した東北の医療機関や、現実に被災していなくても救援活動のために支援に向かった病院、実際に被災地の取材を行った広報担当者の発表もいくつかあり、「3:11ショック」が未だ医療関係者に深い爪痕を残していることを改めて思い知らされた。また今回は国公立病院関係者の発表が多かったが、終了後の懇親会でこれら若手の企画広報担当者の多くが一般企業出身者であることを知り、国公立病院の独法化や経営改革の流れの中で、新しい視点を持った事務系職員の台頭を強く感じさせられた。
今回から3回に分けて各病院の具体的事例を紹介させていただく。今回は、発表の中で「求人広報」に特化した形で戦略的な取り組みを実行して、実際に看護師や医師のリクルートに成功した2つの病院の事例に注目してみよう。
■新百合ヶ丘総合病院
独自の看護師求人用パンフレットで
エントリー数3倍、105人の新規採用に結実
まず医療法人社団三成会・新百合ヶ丘総合病院は、2012年8月、神奈川県川崎市に高度急性期医療を担う総合病院としてオープンした。同院の母体となるのは、福島県郡山市の総合南東北病院を中心に日本全国81ヵ所で医療・介護・福祉サービスを展開する南東北グループ。川崎市北部医療圏の病床不足により、市が救急病院を誘致すべく全国公募し、このたび南東北グループが選ばれ病院を運営することとなった。新百合ヶ丘総合病院人財開発部・小嶋佳里奈さんの発表から、ユニークな看護職員の「求人広報」を紹介する。
同院の人財開発部は、看護職員のリクルートに特化した部門として設置され、現在、8名のスタッフが仕事に携わっている。看護師の教育や新規採用、求人広報の促進や内定者のフォロー等を主な業務にしているという。同院では従来の病院の発想では捉えられない型破りな求人用パンフレットを制作した。
小嶋さんは、「独自のパンフレット制作の目的として、数多くある病院の中から、当院のことをまず“知ってもらう”きっかけとして、更には“知ってもらう”だけではなく、“選択し”、“入職してもらえる”ものを目指しました。そのためには、新卒の看護学生から、まずは“手に取ってもらえる”病院らしくないパンフレットづくりを検討したのです」と強調する。Vol.1は新卒の看護学生にアピールするように、誰でもが手に取ってもらえるファッション雑誌のイメージで、表紙には可愛らしい女の子の写真を使用。未だ病院のオープン前だったので、モデルの女の子が女性へと成長していく過程と重ね、これから新しく出来る病院の「成長」を表現したという。そして今回、病院が完成した段階で制作したVol.3では、成長した大人の女性のモノクロームの写真を表紙に採用した(写真)。
内容の中には、ポップで遊び心のある看護学生向けのページと、看護師の資格取得者で離職中の看護師に向けた文章で詳しく伝えるページが共存し、幅広い世代の看護師にアピール出来るように工夫した。全ての内容を紹介することは出来ないが、病院の周辺環境をイメージしやすいように、スタッフは街に出て撮影した写真を使用。求職者にとって関心事である研修システムや福利厚生については、数ページに亘り詳細に紹介されている。
グループ行事に取り組むスタッフの表情や、職員寮についても掲載されているが、病院の姿が看護師の親御さん達に理解されるような編集の工夫が目につく。この看護師求人用パンフレットは、自主開催している説明会や就職フェア、資料請求された方や、看護学校に配布された。1ヵ月平均のエントリー数は、Vol.1を制作する前と後とで3倍に増加。パンフレットの効果だけでなく、総合的なリクルート活動の結果と思われるが、説明会への参加者数402名、応募者数257名、実際に入職に至った看護師が105名という形で結実した。看護師の紹介会社に頼ることなく、105名の入職に結びつけたという。
広報や編集が本業ではないはずの人財開発部のスタッフが、これだけレベルの高いパンフレットを自ら編集制作し、戦略的に活用しているのには驚きを隠せない。
■岡山県精神科医療センター
「一人でも多くの仲間をつくること」をスローガンに
医師の本気度と魅力的な媒体で大きな成果
今回のBHI賞最優秀賞に輝いたのは、岡山県精神科医療センター事務部経営戦略課主事・西本佳乃さんによる「激戦の最中~医師獲得に向けて」と題する発表だった。
同センターは252床、常勤医23名の岡山県内唯一の公立精神科単科病院。5年前に独立行政法人化され、民間では対応困難な精神科救急や児童思春期精神科医療等にも積極的に取り組んできた。新たな施設の開設や研究部門の充実に伴い、更なる医師の人員確保が必要になり、医師獲得のための広報活動に注力することとなった。
西本さんは「スローガンは一人でも多くの仲間をつくること。更に医師獲得の重要ポイントとして、一つ目は魅力的な媒体の活用、二つ目は勤務医の本気度」と指摘。求人用DVDはプロモーションビデオのように映像と音楽のみで、敢えてテロップ等を一切入れないようにした。チラシには医師の写真等、必要最低限の情報しか織り込まず、極めてシンプルな作りにした。求職中の医師がより詳しい情報を知りたい場合には、求人用のホームページに誘導することが狙いだ。ホームページは研修プログラム毎にページを開設し、研修プログラムの目的や細かい内容まで、医師が知りたいと思われる情報を最大限に盛り込んだ。
また、病院見学の申し込みや問い合わせに対しては、応募がホームページ上の何処からでもクリック出来るように工夫した。
西本さんは、「チラシ、ホームページ、DVD等の多様な求人媒体の一つひとつに意味・役割を持たせることで、メディア・ミックスの戦略的な活用が可能になったのです」との見方を示す。更に各広報物の企画・編集にも同センターの勤務医が積極的に参加し、自分達の思いや考えが形になることで、各医師の意識も徐々に高まっていったという。
全国の合同就職説明会にも勤務医が参加し、同センターの「歩く広報」として、自分の言葉で積極的にPR活動を展開。その結果、来年度からは新たに9名の医師が入職する予定で、「一人でも多くの仲間をつくる」というスローガンは、大きな成果へと結びついた。
(医療ジャーナリスト・冨井淑夫)
病医院広報最新事情【2】
「母親の不安・心配解消」の理念を掲げ、理念に基づく広報活動を19年間継続
2013年01月10日
今回も前回に引き続き、11月2、3日の両日に長野で開催された「HISフォーラム2012in長野」(NPO法人日本HIS研究センターと長野市民病院の共催)の発表事例を中心に、医療機関広報の具体的な取り組みを取り上げてみたい。
まず、特別枠事例発表として、仙台市「かわむらこどもクリニック」の川村和久院長による“院内報から始まった子育て支援の取り組み”を紹介する。ちなみに同クリニックは、これまでの子育て支援活動が評価され、2011年11月、民主党政府(当時)より総理大臣官邸で、「子ども若者育成・子育て支援功労者」内閣府特命担当大臣表彰を受けた。
1993年に開業した川村院長は、当初から「母親の不安・心配解消」を理念として掲げ、理念に基づいた広報活動を19年間に亘って継続してきた。不安・心配解消のためには母親への情報発信が必要不可欠と捉え、開業した年に最初の広報媒体として紙媒体(新聞形式)の「かわむらこどもクリニックニュース」を創刊。現在までに通巻230号を数えている。
川村院長によると、こうした紙媒体は情報を伝える側の一方通行に陥りやすいことを指摘。情報を本当に求める人たちへ正確な情報を伝えたいと考えて、独自のホームページを立ち上げたという。
川村院長は「ホームページを見た小児患者さんのお母さん方から、私たちのクリニックに対する評価も含めて、様々な声が伝わってきた。ホームページ上で患者側の声が直接聴けるということが、私たちのモチベーションを向上させる大きな原動力になっている」と強調している。双方向のメディアという利点を生かし、その年からインタ―ネットによる医療相談をスタートして、現在までに約5700件の相談が寄せられている。
同院長は相談者である患者のお母さん方の不安や苦悩を知り、その解消にはコミュニケーションが不可欠なことを痛感。そのため98年からはお母さん方のコミュニケーションの場を作るために、育児サークル「お母さんクラブ」を設立。定期的に様々なイベントを開催する他、2010年4月からはメールニュースを発行し、6月からはツイッタ―を開始した。7月からはYouTubeによる動画配信。2011年1月からはブログ「こどもクリニック四方山話」を立ち上げ、情報ツールの多様化にも対応している。
同院長によると、メールニュースは情報の質の高さ、ツイッタ―は不特定多数への情報発信、ブログは情報量の多さ、YouTubeは遠方まで発信出来るという点で、各々に特徴がある。東日本大震災の際には同クリニックも、これらのツールを使い分け、多様な情報提供が可能になったが、各ツールを有機的に連携させながら、広報活動を更に進化させていく構えだ。川村院長は「広報は“広く報いる”という言葉から始まった。広報は患者とのコミュニケーションを構築するために必ず必要なもの」と話している。
ステークホルダーに向けての情報発信
画期的なCSRレポートの編集・発行
一般企業の世界ではCSR(企業の社会的責任)への取り組みが徐々に浸透してきたが、医療機関の場合はCSRの考え方に基づいた経営が行われているケースは未だ少数派と思われる。次に紹介するのは、北海道を拠点とし、手稲渓仁会病院や札幌西円山病院等、複数の医療施設や介護施設などを経営し、保健・医療・福祉・介護の各サービスをシームレスに提供している渓仁会グループだ。同グループは、2006年に立案した中期5ヶ年経営ビジョンで第一に「社会的責任(CSR経営)の実現」、第二に医療制度改革による新医療計画のもとにおける「グランドデザインの実現」、第三にはそのための人材の確保等、組織基盤の強化と財務力の増強による「経営の安定化と効率化」の3本の柱を基本方針として掲げた。
そして、その後5年間にわたり、社会の要請に誠実に応えられるようにCSR経営の実践に努めてきた。そうした考え方に基づき同グループは、多くのステークホルダーの方々に対して、CSRの考え方や取り組みを誠実にお伝えすることを目指した広報物として「渓仁会グループCSRレポート2011」を編集・発行している。同レポートはA4版オールカラー50ページの立派なもので、現在、発行部数は4000部。HISフォーラムでは(医)渓仁会法人本部広報室・清水仁子さんより、主に同レポートをメインとした事例発表が行われたが、その内容を中心に医療機関としてはほとんど例を見ない同グループのCSRレポートについて紹介する。
渓仁会グループでは2004年から、サービス全体を表すコーポレート・スローガンとして、「ずーっと。」を同グループの様々な広報ツールを中心に展開している。「ずーっと。」とは地域社会の医療・保健・福祉の充実に「ずーっと」、永続的に貢献を果たすという使命を表現しているという。CSRレポートの表紙には「ずーっと」を中心に置き、写真を全面に使用したデザインで、同グループの基本コンセプトを打ち出している。
同レポートを開くとまず、渓仁会グループ事業理念の全体像が描かれている。事業理念としては【1】安心感と満足の提供【2】信頼の確立【3】プロフェッショナル・マインドの追求【4】変革の精神―の4点。次にミッション、サービス憲章と行動基準が続く。行動基準は「何をするか」について顧客満足、品質管理等、12の項目ごとに具体的に記されている。
レポートの特集は「ずーっと。」を意識したもので、「誕生~子育てを支える」、「地域とのつながり」、「保健活動と先端医療の提供」、「高齢者を支えるケア」等、ライフステージごとの章立てが行われているのがユニークな点。「誕生~子育てを支える」の項目では、ステークホルダーの声として出産を控えた妊婦さんを紹介したページの対向面で、「周産期を支える助産師外来の活動」として、同グループ病院の助産師さんの声を取り上げている。
「地域とのつながり」では、ステークホルダーの声として道内農村部のある村長さんを取り上げる対向ページに家庭医を目指す後期臨床研修医のインタビューを掲載。ヒューマン・ストーリーのような記事づくりで、地域医療の実情が分かりやすく紹介され、臨場感のある誌面構成となっている。
この他、渓仁会グループの東日本大震災災害医療支援活動報告として、「DMAT」や「JMAT」の活動が取り上げられている他、同グループが宮城県気仙沼市で運営する介護複合施設の復旧に向けた取り組みを報告。医療を通じて「いま私たちにできること、すべきことは何か」というメッセージを発信している。
医療機関にも、ようやくステークホルダーという概念が根づきだしたことを実感させられるが、民間医療機関の中には独自のメッセージにより、従来の病院広報誌の発想では捉えきれない経営の根幹にかかわるような情報ツールを開発する動きもあり、次回でもそうした事例をご紹介したい。
(医療ジャーナリスト・冨井淑夫)
病医院広報最新事情【3】
格調高い紙媒体の温かい手触り感、デジタル全盛の時代に広報誌のあり方を改めて考えてみよう!
2013年02月07日
5年ぶりに病院案内をリニューアルし
コンセプト・ブックとしての位置づけを図る
「HISフォーラム2012in長野」の発表事例を中心にご紹介してきた病医院広報最新事情も、3回目の今回で最終回となる。今回はまず、一般的にどこの病院でも制作されている病院案内にスポットを当ててみたい。
石川県能美市の医療法人社団和楽仁 芳珠記念病院(わらに・ほうじゅきねんびょういん)は、2011年、5年ぶりに病院案内のリニューアルを行った。2011年4月に理念と基本方針を見直し、新しい事業計画を策定したのを機会に、07年に作成した病院案内の全面的な検証からスタートした。同法人経営企画部・鈴木慈さんによると、一般企業的な視点から見ると、従来の病院案内は理念の説明と、現状の病院機能を羅列しただけの製品カタログのようなもので、何かが欠けていると感じたという。特に理念実現までのプロセスや、病院職員の思い等が伝わってくる内容ではなかったのだ。理念実現に至るまでのプロセスや思いがより具体的に伝えられるコミュニケーション・ツールとして、病院案内を「コンセプト・ブック」として位置づけることとなった。
その前に同院の事業計画の骨格となる「MOT(Management of Technology=技術経営)」について若干の説明が必要だろう。MOTとは「企業や大学で開発された技術を、実際の社会に役立つようにサービスや商品企画に活かして競争力を高める」経営のこと。北陸先端科学技術大学院大学の近藤修司教授が提唱する経営手法で、同院はMOTを導入し、「医療の質」と「病院経営の質」の両面から病院改革を推し進めてきた。
MOT改革の眼目は『四画面思考』という考え方で、感動をもたらす「人間主義」と利益を生む「経済主義」の2つのベクトルを両立。理想の「ありたい姿」を創造するために、実現可能な「なりたい姿」(目標)を設定し、「現状の姿」(現状分析)とのギャップを解消するため、「実践する姿」(事業計画)を継続的に遂行して、期待される事業体へと生まれ変わろうとするものだ。
具体的には「現状の姿」をSWOT分析し、「実践する姿」(事業計画)で各部門がアクション・プランを作って実践する。「なりたい姿」は2種類あり、単年度目標と中長期的な目標。そして今後の「ありたい姿」を描いていく。このように理念実現までのプロセスを“見える化”することが可能になる。要するに理念にある「ありたい姿」を直感やイメージだけでなく、きちんと過去・現在・未来を通じて設定することを重視している。
同院で『四画面思考』は06年から開始され、2012年で7年目を迎える。07年の病院案内では「ありたい姿」と「現状の姿」しかなかった。今回のコンセプト・ブックでは「なりたい姿」と「実践する姿」を加え、4つの画面が理念実現までのプロセスを、現実的なストーリーとして表現することが出来た。同院のスタッフにとっても、事業計画に理念実現を習慣化していく意識が自然に醸成され、効果は大きかったという。
「人とつながり、共に育てる」をコンセプトに
温度を感じさせる温かい誌面づくり
同フォーラムでは、病医院広報誌の優秀作品に対して与えられるHISデザイン賞の表彰も行われたが、最優秀の大賞を受賞したのは東京都・(社福)三井記念病院が制作した季刊『ともに生きる』だ。同院広報部・町井健二さんの発表を紹介したい。
秋葉原に在る三井記念病院は、都の区中央二次保健医療圏に属し、同医療圏は日本でも有数の大学病院を始めとする特定機能病院、救命救急センター等、高次機能病院が屹立する地域。三井記念病院は【1】心血管病の先進医療【2】がんの標準治療・低侵襲治療【3】高齢者の生活の質の改善を図る治療―を診療の3本柱に、482床(ICU7床、CICU6床、HCU21床)の病床を有し地域の高度急性期医療を担う。明治42年に開設された同院は、100年以上の歴史を持つ名門病院でもある。創立100周年を機に次の100年に向けて、大きな変革を目指した。
高齢化の進展に伴い、国の施策として医療の機能分化と連携が進められる環境下で、同院は患者・連携先医療機関・病院をつなぐ新しいコミュニケーションの姿を模索。「人とつながり、共に育てる」をコンセプトとして打ち出し、コンセプトを具現化する広報誌として『ともに生きる』を編集・発行することとなった。
医療機関側からの一方通行による情報発信では、同院の考えるコミュニケーションのあり方とは合致しない。事実を事実として伝える他に、事実の裏にある「温度」を加えることで共感が得られる。「人とつながる=共感を得る」ことこそ、同院が目指していくコミュニケーションの形であると考えた。具体的には医療に携わる様々な人間の表情をふんだんに取り入れ、「人の温度」を表現することを重視した。「人の温度」を感じることで、お互いを理解し、コミュニケーションを育んでいくとの発想だ。
それでは『ともに生きる』の内容を見ていくことにしよう。デザインによる温かみを表現するために、クレヨンで描いた印象のイラストを多用。紙面に温度を感じさせることで、温かみや分かりやすさ、親しみやすさを感じる工夫をした。
「あの日」という連載の1ページ記事がある。2012年7月号の3回目の企画では、2008年12月27日の電子カルテを導入した「あの日」にスポットを当てた。電子カルテ導入のキーマンである情報サービス課シニアマネジャーと、医事会計のキーマンである医事課シニアマネジャーの臨場感あふれる対談を掲載して、「あの日」を再現。電子カルテ導入のトゥルーストーリーを記事化した。そこでは電子カルテが効率性や利便性だけでなく、「医療の質」を向上させるツールであることを分かりやすく伝えている。
広報誌『ともに生きる』は院内コミュニケーション・ツールとしても認知され、記事掲載の要望や「すすむ医療」と題する最先端医療を紹介するページを冊子にして欲しいとの要望も上がった。
『ともに生きる』を読んで、私が感じたのは昔の雑誌に見られた温かい手触り感である。
表現の仕方としては難しいが、映画に例えると最近のデジタル映像ではなく、昔の名画のフィルムの質感とでも言おうか、格調高く深みのある味わいである。多くの場面でコンピュータが機能停止に陥った東日本大震災を契機に、情報提供ツールとしての紙媒体の価値が再評価されつつあるが、インターネットやメールマガジンにはない、高齢者にも親しみやすい広報誌のあり方を一考してみる必要があるのかもしれない。
(医療ジャーナリスト:冨井淑夫)