病医院広報例1

 ここまで来た医療とニューメディア
      
                   ブーグロー「ホメロスと案内人」

ここまで来た医療とニューメディア

iPad、iPhone、テレビ電話、ポータルサイトと技術革新に伴い進化を遂げるニューメディア

2010年12月20日

糖尿病患者の健康管理サービスで、有効なツールとなる携帯電話の活用

情報通信技術の発展、特にインターネットの普及によって、医療機関の情報提供やネットワーク化、患者の支援システム等は、ここ10年程の間に大きな進化を遂げてきた。医療機関の情報インフラもiPad、iPhone、ポータルサイトの活用等、新たな局面を迎えている。こうした動向を踏まえて、筆者が取材した医療施設における、ニューメディア活用の最新事例をいくつか紹介したい。

携帯電話を活用した患者の健康管理・支援サービスは、近年、特に糖尿病等の生活習慣病治療に注力する医療機関で、有効なツールとして採用されている。大阪市のオフィス街で昨年開業した、糖尿病治療を「特色」として打ち出す内科診療所の院長は、「地域住民の流動性が高い都心部で、これまで中核病院で実施してきた“糖尿病患者友の会”のような草の根的な組織化活動の有効性については疑問を感じる。生活習慣病患者に対しては、ニューメディアを活用した患者の健康管理サービス等の方が、患者の組織化に繋がるのではないか」との考え方を示す。同医院では携帯電話を活用し、患者に「かかりつけ医登録」をして貰い、携帯電話で「糖尿病モニタリングの実施」や、「動画を使った栄養指導」などの、独自の健康情報サービスの導入を検討している。一定の先行投資が予想されるが、将来を考えた場合に糖尿病等の慢性疾患の早期介入・予防の情報ツールとして、また安定顧客の確保という点からも、効果的なツールとして期待出来るというのだ。


テレビ電話を使った在宅医療は、医療と介護の連携に力を発揮

2008年から「ふるさとケータイ創出推進事業」というプロジェクトがスタートしたが、これは総務省の予算で行う自治体主体の社会実験の1つ。携帯電話を活用して地域の高齢者や子どもの安心をサポートするサービス等を実施しようというもので、「暮らしの安全・安心の確保、地域の繋がりの復活、地方の再生及びユビキタス社会の構築実現」を目標としている。

2009年度の同事業(予算規模、一般会計1億5千万円を予定)の委託先として、北海道の紋別市、石川県の能美市・七尾市の3つの自治体が決定した。このうち、能美市の事業内容はまさに「糖尿病患者の在宅健康サービスの構築」に踏み込んだものだ。能美市の医療法人和楽仁・芳珠記念病院等、地元中核病院や地域医師会が協力し、軽症の糖尿病患者が携帯電話を使って肥満度や血圧、歩数、食事内容、尿たんぱく、空腹時血糖値のデータを送信すると、管理栄養士による栄養指導や運動指導を「在宅で」受けられるという仕組みになっている。このプロジェクトの成果如何によっては、全国的な同様のシステム展開も見えてくる。

医師と患者が直接的に接しない遠隔診療分野ではさまざまなニューメディアが開発され、医療現場でも実用化されつつある。大阪府にあるBクリニックは常時50人以上の在宅患者を抱える在宅療養支援診療所だが、リモートコントロール(遠隔地操作)可能なテレビ電話を使った在宅医療を実践している。患者宅の家庭用テレビに移動可能なカメラを設置し、家庭用テレビとクリニックのテレビ画面を電話回線で繋いで、直接、患者や家族の表情・状態を見ながら会話をする。要介護者であれば、床ずれの処置や皮膚の状態をある程度把握し、見たい部分を拡大して見せてもらうことも可能だ。さらに血圧や脈拍、体温を直接テレビ電話でデータとして送信することもできる。主に遠隔地で在宅医療を希望される患者が対象だが、ハードの導入にコストがかかることもあって、利用者は数名にとどまっている。こうした状況だが、Bクリニックの院長は「テレビ電話を通じて患者家族やホームヘルパーに対して適切なアドバイスを与え、迅速な対応が期待できるので、医療と介護の連携に有効」と強調する。


ポータルサイト活用による広報活動と、3D仮想空間による臨場感のある疑似体験

筆者は10月30日、福井済生会病院で開催されたNPO法人日本HIS研究センター主催の「第14回病院広報事例発表会」を取材し、ニューメディアによる先駆的な試みとして、地域限定ポータルサイトと3D仮想空間(セカンドライフ)による情報発信をテーマとする、大分岡病院の事例発表に瞠目(どうもく)させられた。ここでは大分岡病院医療福祉支援部・有田円香さんの発表を基に、同院独自の取り組みを紹介したい。

地域限定のポータルサイトは最近、自治体主導で立ち上げられるケースが多い。当該地域の観光やイベント、お店情報等を掲載することで情報の共有やPRが可能で、地方都市の活性化に欠かせないツールとなっている。

大分岡病院は地元のITベンチャー企業とのコラボレーションにより、大分県東部地区に限定したポータルサイト「eストおおいた(http://estoita.resonantstyle.com/)」を通した情報発信を行っている。

サイトを運営する企業側には「利用者により充実した医療情報を提供したい」との思い、同院には「地域住民に医療をより身近に感じてもらいたい」との思いがあったため、両者のコンセプトが合致。お互いの専門性を活かしたコラボレーションが実現することとなった。2008年9月に開設された「eストおおいた」は、大分市東部地域の住民に役立つ情報を満載。1ヵ月で約5000件のサイト・ビューがあり、アクセス数は急増しているという。このポータルサイトに同院は「生活者に役立つ医療情報」として、医療に関するQ&Aや医師情報、連携先医療機関MAPやメディカル・レシピ等を掲載しており、地域住民から好評を得ている。また同院のホームページからも「eストおおいた」にアクセスできる。今後は、介護・福祉情報や一般医療ニュース、医学トピックス等も掲載し、より生活者に役立つポータルサイトへバージョン・アップさせていく構えだ。

もう1つユニークな試みとして、同院は、医師・看護師不足を解消するべく、前出のITベンチャー企業と新しい取り組みを始めた。これは、インターネット上の3D仮想空間(セカンドライフ)の中に大分岡病院メディカル・インフォメーションセンターを設け、常設の臨床研修医・看護師の募集ブースを開設して、365日24時間対応する試みだ。詳しい人事情報を聞きたい医師や看護師が来院することなく情報を収集し、人事担当者とアバターを介して、コミュニケーションを取ることができる。

海外の病院では、既にこうした仮想空間の施設で、患者がCT検査・入院の疑似体験や、医療従事者がトリアージ訓練をする試みが行われている。医療におけるニューメディアの進展は、この段階にまで到達しているのだ。

(医療ジャーナリスト:冨井淑夫)


  独創的な病院広報事例

独創的な病院広報事例

目標に向けて組織一丸となった取り組みが、アイデアを生かした新機軸・成功のカギ

2011年11月16日

病医院企画広報プランナーの養成や、医療機関の広報活動の支援を行ってきた日本HIS研究センターは、10月16日、群馬県高崎市で「第15回病院広報事例発表会」を開催した。同発表会では筆者も審査員の末席を汚させていただいたが、全国各地から10病院の企画広報担当者による、非常に中身の濃いプレゼンテーションが行われた。どの病院の取り組みも極めて独創的であり、戦略的であったことが印象に残った。
今回は同事例発表会から、各審査員からも高い評価を得た2つの病院の取り組みをご紹介しよう。


徳島赤十字病院
“踊る血管”阿波踊り健診で盛り上がる


徳島赤十字病院は徳島市の地域中核病院として、長年に亘って地域に貢献してきた。救急に力を注ぐ病院として、これまでは健診事業にそれ程、注力はして来なかったのだが、毎日、救急車で搬送される患者は脳梗塞や急性心筋梗塞等が圧倒的多くを占め、2011年の春に新しく就任した病院長から、「治療の前の予防医療が重要で、健診も積極的に行っていこう」との提案がなされた。そして特にユニークな発案として、徳島県独自の夏の風物詩である阿波踊りと、健診をドッキングさせることが決定された。

救急指定病院の特色が色濃い同院にとって、当初は病院職員から積極的な姿勢が見られず、同院の広報を担当するSさん(事務部)は、院内広報を上手く行っていくことが、まず必要と考えた。そこで同院では健診の柱として、(1)専門性(2)検査力(3)看護力(4)ホスピタリティ(5)ネットワーク―の5つのキーワードを打ち出すことを決めた。

市民ランナーでもあるSさんは、70歳を超えたランナー仲間が高齢になっても元気なのは、若い頃に阿波踊りをやっていたことから、足腰が丈夫で動脈硬化などもない健康な体の持ち主であることを知り、「踊る血管・阿波踊り健診」と言うキャッチコピーを考案。

また独自のイメージキャラクターを作り、病院内各部署を回って院内広報を徹底して行った。肝心の健診の内容であるが、8月から10月の毎週、木・金曜日に一泊二日で実施するが、病院内での健診に加えて、徳島市の「阿波踊り会館」に移動して、踊り体験を組み込む。心電計を付けて踊ってもらいながらデータを取り、運動に十分な酸素が心臓に運びこまれているか、リスクの高い不整脈がないか等を、チェックする。また徳島の阿波踊り開催中のお盆(8月12日~13日)には、「お盆限定コース」として、医師や看護師らでつくる「徳島日赤連」メンバー約200人と共に、市内の演舞場に繰り出して、本場の踊りも体験してもらう。 

こうした健診の内容をプレスリリースとして発表。新聞やテレビ等のメディアに取り上げられる機会が増えるにつれて、病院職員に「阿波踊り健診を盛り上げよう」との気運が一気に高まり、特に健診に関わるスタッフには大きな自信や誇り、満足感にも繋がっていった。マスコミで報道された内容が、そのまま院内広報に直結し、病院職員全体のモチベーションを向上させ、組織を挙げての協力体制を確立させる結果を生んだ。
1回目の健診受診者こそ4名だったが、患者にとっても“踊って測定、受けなきゃ損損!”の思いが醸成されたことは言うまでもない。


たま日吉台病院
子どもを対象にしたオープニングイベント


神奈川県川崎市に在る医療法人社団晃進会・たま日吉台病院は、昭和63年の開院以来、慢性期の高齢者医療に注力してきたが、2011年の9月1日に137床の高度療養型医療施設(人工透析・人工呼吸器対応)の機能を持つ「分院」を開院することとなった。PRの必要性から開院に先駆け、同年の3月より同院の広報プロジェクトが動き出した。
同院の広報プロジェクトを担うのは、医療安全管理室に籍を置く看護師のOさん。Oさんは数年前に、法学部の大学院で医療裁判の判例を研究していた経験があり、医療安全管理室では各部署と連携しながら、専門家として病院全体の安全管理を進めていく立場にあった。

これまで同院では広報誌の制作や、イベント開催等の活動は行ってきたが、従来の枠組みではない新しい広報活動を行っていくことを目指した。そこで対象としては、「地域の次代の大切な担い手」である小学生児童にターゲットを絞ることになった。慢性期医療を主体とする同院にとって、子ども達は同院の患者層に必ずしもマッチするものではないが、子どもの時の思い出は必ず大人になってからでも記憶に残るものだし、小学生のキャリア体験として非常に有意義だと考えた。内容としては(1)開院前の病院探検を通して、命の大切さを身近に感じてもらえるものにする(2)AED・救急車を体験する(3)医療の仕事を紹介する(4)マスコミを通してイベントを公開する―の4点が広報プロジェクトで確認された。

新病院開院のオープニングイベントとして、8月30日実施を決定して、プレスリリースを作りマスコミに紹介してもらった。また近隣の小学校を訪れて主旨を説明し、地域の消防署にも協力をお願いした。その結果、当日は小学校より教員が9名、児童19名、病院の職員の子ども2名の参加があり、安全のため病院バスでの送迎を行った。

ユニークなのは、同院が制作した「病院のおしごと」というストラップ付きイラスト小冊子。病院スタッフの顔が見える形で、手書きにより病院各部門の業務が、分かり易く描かれている。消防隊による「AED実演」のデモンストレーションに子ども達は興味津々の様子で、一番大喜びしたのは救急車への乗車体験だった。院内見学で各部門を回るたびに、児童たちは目を輝かせ、こうした模様は翌日の新聞3誌と、後にタウン誌2誌にも紹介された。参加した子ども達の感想文では、「最初は関心が薄かったが、看護師になりたいと感じた」、「こういう人達のお陰で自分達の健康や安全が守られている」、「自分も人助けをしたい」と言った、素直な感想が多かったという。

「広報活動の目的は“宣伝”ではなく、地域と病院との“対話”です」と言うOさんの発言が印象的だった。またこうしたイベント成功の要諦は、院内連携であり病院全体のチーム力発揮であるのは、言うまでもないことだ。こうした取り組みが、ひいては医療安全にも繋がっていく。Oさんが医療安全を担う部署の責任者であったからこそ、広報担当者として成し得た部分も少なくはなかったと思われる。

(医療ジャーナリスト:冨井淑夫)