コミュニケーションのQ&A

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  ヘルパー訪問看護Q&A

コミュニケーション


疑問
1 些細なことですぐに怒り出す利用者に困惑しています。

答え 怒る以上、先ずは原因、理由があるということに目を向け、単に「困った、どうしよう?」の前に「なぜだろう?」と考えてみましょう。先ずその怒る対象があなただけなのか、最近、あるいはその日、ご家族や他に接する人にも同様なのか?
 ご自分に限定せず常に怒りっぽいのであれば、例えば自身の思うようにならない身体や家族・周囲の対応に苛立っているとか、あるいは身体の痛みや苦痛で穏やかにいられない、何かがあるのかも知れません。
 逆にあなた自身に限定するのであれば、先ず原因そのものはあなたにあると理解せざるを得ないのかと思いますが、反面、あなただからこそ素直に感情を露わにできるということなのかもしれません。
 さて、どうなのでしょう?率直に何を怒っているのか尋ねれば早いのでしょうが、特に理由、原因を口にせず怒るという内面には「今更いっても始まらない」「何度いっても通じない、聞き入れてもらえない」という説明という手続きに対するあきらめがあるのかも知れません。あるいは最悪、その段階を通りこして「とにかくもう気に入らない」なのでしょうか?とにかく表現方法はともかく、「怒ってでも」伝えたい何かがあるという意思表示であることは間違いありません。
 先ずは思い返してみましょう。何か何度となくご本人が口にされた要望、苦情はありませんでしたか?気にもとめていない些細なサインがありませんでしたか?それを考え気付くことから始め、どうしてもわからないときは、「気付かず、理解できずに申し訳ありません。何を怒っていらっしゃるのか教えてはもらえませんか?」と低姿勢に尋ねてみましょう。大事なのは「理解してやる」ではなく「理解させて欲しい!」という気持ちだと思います。
 原因、理由がわかり、それが聞き入れられる、解決できるものかどうか、説明し互いの都合を理解しあうなどの作業の段階では、家族や上司との相談も必要となるのかも知れません。



疑問
 利用者の指示が細かくて困っています。買い物もお店を指定します。 


答え
 高齢者の方々は、家事や食事などについてはそれぞれの方法が確立されていますので、まずはその家庭のやり方を学ぶことから家事援助=家事の代行は始まります。信頼関係ができてきた段階で、もっと効率の良い方法などを提案してみてはいかがでしょうか。
 またたくさんの指示がでても、限られた時間で全部こなせるとは限りません。仕事に取りかかる前に「今日は二時間ですので、これとこれをやりたいと思いますがよろしいですか」と了承を得ておくことが大切です。
 買い物も近くでしたら要望に応えられますが、時間がかかりすぎる遠方を指定された場合は、「ヘルパーの動ける範囲は、事業所が指定を受けているサービス提供地域なんですよ」と説明して納得してもらいましょう。
 それでもどうしてもという場合は、介護サービス計画を変更してもらうという方法もあります。

ただ余談となりますが、細かなことにこだわれる、というのも自分の生活に関する管理能力の「自立」という観点から、軽視はできないとも思います。


疑問 話好きな利用者さんです。お菓子を用意して話すことを楽しみにされています。時には仕事が終わっても帰れず、時間延長になることもあります。


答え
 訪問介護サービスは決められた時間内に必要なサービスを提供するというルールがあります。そしてサービス提供であろうが、お茶をごちそうになろうが時間に対して料金がかかっていることを踏まえておかねばなりません。とはいえ、茶菓まで用意して話し相手を求める利用者に、無下に「時間ですから」と帰るのも気が引けるというものでしょう。利用者がヘルパーを引きとめる理由のひとつはやはり「寂しさ」があるようです。核家族化した現代、一人住まい利用者ならずともヘルパー以外に誰とも話すチャンスがないという方もいるでしょう。とはいえ、プロのヘルパーである以上、利用者に対して安易な同情は禁物です。そこは、やんわり「まだ仕事が済んでいませんので」「次のお宅への時間がありますので」と言って辞退するのが無難でしょう。利用者の寂しさを解消するには、デイサービスの利用や地域のボランティア、近隣の人々に時々訪ねてもらい話し相手になってもらうことも考えられますし、必ずしもヘルパーが料金をいただいてまで行わねば他に解決できないというべき役割でもありません。まずは事業所に報告し、ご家族、ケアマネさんなども含めて相談してみましょう。


疑問4 親しくなるにつれ、プライベートなことも聞かれます。どこまで答えたらいいのでしょうか?


答え
 利用者さんもヘルパーさんの何もかもが知りたいというわけではないと思います。それでも、全くの他人、面識にないひとを自分の家に迎え入れるのですから、その人の素性を知りたいと思うのは、ある意味では当然ではないでしょうか。利用者はサービスを利用するにあたってヘルパーに家の中のすべてをさらしているわけですし、よもや家の中のことがヘルパーを通じて外に漏れるのではと心配するのも、当然といえば当然の話です。プライベートなことを聞くというのは、それによって安心できる人かどうかを見極めたいということではないでしょうか。
 とは言っても、利用者に聞かれるままに詳細な住所や家族の勤め先や役職まで聞かれるのだとすれば、行き過ぎです。最低限、人柄の判断に必要と思われる概要を伝えるのも必要かとは思いますが、なるべく一般論として差し支えのない範囲にとどめ、あるいは意図的にぼやかしてでも、あまり自身の細かな話題を持ち出さないようにするのが賢明かと思います。


疑問5 利用者さんに個人契約を頼まれて困っています。


答え
 訪問介護は介護保険を使った公的なサービスであり、訪問介護は一定の基準によって回数や時間が決められていること、自分も組織の一員として会社からの指示・命令で動いているということを説明し、個人的には応じられない旨を説明します。その際、利用者が傷つかないよう、そこまで信頼していただいた気持ちは嬉しいと伝えます。そのうえで、どうして個人契約をしたいのかを聞き、派遣回数やサービス内容の増加を要望しているようであれば、事業所に報告して、何ができるか検討してもらいます。訪問介護だけでは対処できないケースは利用者の要望に応えられるほかのサービスの調整も含め、ご家族、ケアマネさんも含めた相談につなげます。


疑問 利用者に贈り物を渡され困っています。贈り物の上手な断り方を教えてください。


答え
 利用者や家族のなかには、感謝の気持ちを表すつもりで、贈り物を用意されることもあるかと思います。ヘルパーの職業倫理に鑑みても、贈り物の金額の多寡に関わらず、受け取るわけにはいきません。「受け取れない規則になっていますので、お気持ちだけで」と断るのが無難ではないかと思います。「硬いことを言わないで」と押し付けられるケースもあろうかと思いますが、初めは単に感謝の気持ちからした贈り物でも、受け取ることで、「魚心あれば水心」と、便宜を図ってくれてもいいのではと、利用者に期待を抱かせることになりかねません。まして初めは素直な感謝の気持ちが、毎年、季節の恒例になり、単なる義務感になっていったのでは感謝も本末転倒となってしまいます。これから先の訪問介護における活動、利用者との良好な関係を考えれば、受け取らなかったことで一時は気まずくても長い目で見れば、公正な人という印象に変るのではないでしょうか。
 受け取らないことが大前提でありながら、互いに引っ込みが付かず受け取らざるを得ない、といった最悪の事態となった場合も、決して「個人的に渡した、受け取った」とはせず、事業所に持ち帰り上司に報告の上、その日のうちなり早めにその上司からお礼の言葉なり、「今後は!」と連絡してもらうだけでも、「個人的に」という事実は否定され公正さはあとに繋がるものと思います。


疑問 利用者はある宗教の信者で、訪問するたびに勧誘され辟易しています。


答え
 まず、最初に勧められた時に「ホームヘルパーは宗教活動に関われない」と、明言するのが大切です。利用者と良好なコミュニケーションを図りたい一心で聞く姿勢を取ったり、曖昧な態度で接すると、入信してくれるのではと期待を抱かれかねません。利用者の思想信条は尊重しつつも、「立場上、そのようなお話はうけたまわれません」とはっきり断るのが今後のためです。また、深い意味はなく、「移動中事故に遭わないように」と安全祈願の御守りなどを渡される場合もあるかもしれません。ヘルパーの身を気遣っての好意に「受け取れません」と断れない時もあるでしょう。そういう場合は、事業所に届け、事後処理を託します。併せて茶菓の提供や贈り物を受けることと共通し、「金品の授受」が予想外の方向に発展しかねないことも気にとめておきましょう。微妙な問題は利用者とのやりとりも含め自身のメモに残しておくのも必要です。


疑問 訪問するたび、利用者に「死にたい」と言われ、困っています。


答え
 利用者に「死にたい」と言われれば、ドキッとしますよね。でも、「死にたい」という言葉が出る理由も様々です。単に高齢となり長生きするものではないという考えだけで「もう迎えが来てもいい歳だ」という言葉の置き換えで口にされる方もいれば、うつ病や脳血管障害からくる感情失禁など原因の場合もありますし、現状の生活の不満を「死にたい」と言う言葉に集約させ、口癖のように言う方もいます。原因がどうあれ、やはり自分だけで判断せず、上司、や関係する担当者を通して客観的な判断も必要でしょうし、場合によっては専門家の意見も聞くべきでしょう。自殺につながるサインだとしたら見逃せません。また、たとえ病気ではないにしても、先行きの不安、日常の空しさ、そして寂しさ、など「現状から逃れたい」という利用者本人にしか分からない感情が「死にたい」という言葉になって出るのかもしれません。そういう抑うつ状態の方に「頑張って」などの励ましの言葉や、「そんなこと言わないで」などの事情や気持ちを聞かないままの否定は禁句。通り一遍の言葉は、相手の心に届かないどころか、かえって相手を追い詰めかねません。
 まずは「どうしたのですか?」と、ご本人がせっかく投げかけてくれたサイン、意思表示に耳を傾けてみましょう。


疑問 利用者に別の日に来ているヘルパーの悪口を言われます。聞くのも嫌ですし、自分のことも言われているのではと心配です。


答え
 まず、利用者がなぜ、あなたに他のヘルパーの悪口を言うのかを考えてみましょう。他のヘルパーの悪口を言うことで、あなたの気を引きたいと思っているのでしょうか。それとも、相手への不満を直接言えないので、あなたに伝えて欲しいと思っているのでしょうか。また、あなたへの不満を「他の人の話」に転嫁して転嫁して伝えているのでしょうか。気を引きたいために他のヘルパーの悪口をいう場合は、話に乗らずさりげなくかわすようにします。具体的な苦情であれば業務連絡として、感情や憶測を交えず事実のみを正確に報告します。それは決して同僚を貶めることにはなりません。それがチームとして利用者に関わるプロのヘルパーのあり方というものです。もちろん利用者の不満があなた自身に向けられているものであれば、反省し、改善するように努めます。


疑問10 利用者さんと話をするのがおっくうです。


答え10
 人間ですからだれしも得手不得手があるのは当然です。しかしヘルパーさんは介護のプロなのですから、利用者さんとコミュニケーションをとることは大切な仕事のひとつです。「おっくうだから話したくない」ではすまされません。
 その「おっくう」になる理由を考えてみましょう。利用者さんが耳が遠くて話が伝わらないからでしょうか。その場合は低い声でゆっくりと耳の近くで話をすると伝わりやすくなります。また身振り手振りを交えて体全体で表現しても伝わりやすくなります。
 また年齢が離れすぎて話題がないという方がいます。こちらの意志や意見を言わなくても、聞き役に徹して相手の話を聞けば良いのです。相手の話に共感しながら聞いていると思ってもらえれば立派に会話はなりたっているのです。また無理に話を続けなくても、相手を思う気持ちは伝わります。
 いずれにしても面倒がらずに相手の心に寄り添えるプロを目指して下さい。

疑問11 利用者さんに家族問題を聞かされて困っています。どこまで対応したらいいかわかりません。


答え11
 まずは目を見て聞いてあげることです。自分の話を真剣に聞いてもらうだけで安心するという方もいると思います。家族の問題を愚痴られても、本当のところどうなのかは当事者以外にはわかりませんし、感じ方も様々。抑うつ的な傾向がある利用者であれば、話がどうしても暗い方向になりがちです。家族間の問題はヘルパーが立ち入れることではありません。命に関われる問題ではない限り、立ち入らないで事業所と相談することです。利用者さんからどんなに信頼されていても、職業としての距離を持ち、必要以上に感情移入はしないことが大切です。また、利用者から聞かされた話を、そのまま家族や、外部に漏らすことがあってはいけないのは当然のことです。


疑問12 利用者と家族のトラブル現場に居合わせてしまいました。どうしましょう。


答え12
 訪問した家庭で、利用者と家族がけんかをしている場面に遭遇するということはありえると思います。なんであれ家族間のトラブルに介入するのはご法度です。険悪な雰囲気の中で、仕事に取り掛かるのは大変だと思いますが、逆にヘルパーの目を気にして、けんかを中断してくれるかもしれません。それでも、やりにくいことは確かでしょうが、仕事としてすべきことを淡々とするしかありません。ヘルパーの仕事ができないような状況であれば、事業所に連絡をして指示を仰ぎます。利用者の家で起きたトラブルについて、他言することは厳禁です。


疑問13 利用者さんのからだに虐待の痕跡が。どうしたらいいでしょう。


答え13
 担当者に報告してください。利用者にどのような危険があるか、将来どのような危険が予想されるかによって強制的な介入が必要になる場合もありますし、場合によっては法律的な解決を求めなくてはならない場合もあります。
 ただ、虐待の痕跡が認められても、利用者本人が認めない場合もありますし、虐待が他人に知られることでより厳しい報復を心配し、口を閉ざす場合もあります。また、虐待する家族を恥じとして、虐待の事実を認めない場合もあります。なんであれ、利用者が望まない限り強引に進められません。また、虐待をせざるを得なかった家族への配慮も必要です。「利用者が可哀想だから、何とか助けたい」というような単純な正義感ではどうにもなりません。ひとりで判断しないで、どういう状況なのかを事業所に報告してください。