音楽療法とは?-2

   
               フェルメール「ギターを弾く女」

音楽療法ってどんなことをするの?①

 
初めまして!
介護員兼生活相談員兼音楽療法士の上田です。
メディカ倉敷北ではお色気を担当しています♪

では、早速前回の続き…今回は音楽療法ってどんなことをするの
ということで具体的にどんな感じなのかあげてみたいと思います。



音楽療法は、前回少しご説明したように
参加される方の状態に合わせて
どんな状態になることが望ましくて、
その状態に至るにはどのような訓練が必要なのかをまず考えます。
そして、その訓練に対してどのような音楽
アプローチしていくのかを音楽療法士が考え実施します。





上の図をご覧ください。
縦のラインが音楽療法で目的とする領域です。
目的とする領域は5つあり、認知領域では記憶や注意力などを、
社会性領域では対人関係などを、
コミュニケーション領域では言葉や言葉を使わない合図など、
運動能力の領域では身体的なことを
情緒領域では感情にかかわることを具体的には取り扱います。


横のラインは音楽療法の活動です。
音楽を聴く、歌を歌う、楽器を演奏する体を動かす等の
活動を通して働きかけます。





たとえば、記憶力や注意力に働きかける場合、
若かったころの歌を歌って、その頃のことを思い出してもらい、語っていただいたり
(自分の人生を振り返って語っていただくことを回想法といいます。
これは回想法的音楽療法と言えると思います)、
「たきび」を歌う時に「き」と発音するところだけを歌わないという活動をすることがあります。
これは、下の図の認知領域と歌うが交わった部分にあたります。





このように考えられたプログラムを組み合わせて音楽療法は行われます。
次回は他の活動例を見ていきたいと思います♪

 コラム続 音楽療法、頑張って!

 
 上田さん、お疲れ様。○○担当ですか?少しイメージが違うような・・・。
 うちの娘たちという印象なんだけど。
 少し対象の病気の方で、先日の佐藤 正之先生の文献の残りをご紹介します。
 

 神経疾患への音楽療法に期待
 

 いまだエビデンスの確立していない中で,neurologyにおいて比較的報告が多いのが認知症,失語症,パーキンソン病に対する音楽療法である。

 

◆認知症:認知症の症候は,もの忘れなどの中核症状と,心理・行動上の異常であるbehavioral and psychological symptoms of dementia BPSD)に分けられる。もの忘れに関しては,音楽聴取によりアルツハイマー病患者のエピソード記憶が改善したとの報告がある。また,音楽は情動に直接はたらきかけることからBPSDに対する効果も期待されてきたが,最近の複数のシステマティック・レビューでもその有効性が確認されている。音楽療法にかかる経費は,認知症患者の一日のケア費用の70分の1で費用対効果が大きいとの報告もあり、BPSDは,音楽療法の効果がもっとも期待できる領域である。


 BPSDは、以前認知症の周辺症状といわれていた徘徊や抑うつ状態
等のことですね。今回紹介されていた回想法も、セラピーとしては
かなり熟練を要するようです。音楽療法ならではの手法もあるようです


◆失語症:言語能力のすべてを失った全失語の患者が,歌唱の際には歌詞を流暢に唄う現象がしばしば観察される。このことから歌唱を失語の訓練に活かせるのではとの期待が生じたが,これまでの報告では単なる歌唱では効果はないか,あっても限定的である。音楽的な要素を用いた系統的な失語訓練法にmelodic intonation therapy MIT)がある。MITは音楽のリズムや節回しを利用して失語症患者の発話を改善させる方法で,米国神経学会により有効性が認定されている。本邦へは杉下守弘らのグループによって導入されたが手法のにあたるところが文章では説明しにくいことから汎用されるまでに至っていない。


 失語症の種類にもよりますが、日ごろ言葉の出ないお年寄りが、リハビリの
レクリエーションの時、上手に歌を歌って、驚かされることは・・・確かに
ありますね。音楽と言語では働く脳の部位が異なるので、こうした現象が
おこるわけです。ただ歌を歌えばよいと言うわけではないので、一定のリズムを
つけてしゃべったり・・・というセラピストの管理が必要になるようです。


◆パーキンソン病:すくみや突進を呈するパーキンソン病(PD)患者が,床に引いた平行線を跨ぐように指示されるとスムーズに歩くことができる。その機序として,平行線が視覚的リズムとしてはたらくとする意見がある。このことから,PD患者の歩行障害に対する音楽療法が試みられてきた。筆者も「うさぎとかめ」のmental singing(声を出さずに心の中で歌うこと)がパーキンソン歩行を有意に改善することを報告した。

 ある程度全身を動かすことによって、神経末端からドパミンを
分泌させ、パーキンソン病を警戒させようという試みの一つが
パワーリハビリですが、こうした運動に音楽を取り入れている
施設も増えているようです。

 


 大学病院音楽療法室での取り組み

 

 三重大病院では,20121月に新病院に移転したのを契機に患者サービスの一環として音楽療法室が設置され,同年6月から週1日,認知症患者に対する音楽療法が行われている。

 

 具体的には,認知症医療学講座の大学院に在籍している音楽療法士が,室長の指導・監督のもと,自由診療として1時間のグループ・セッションを行う。対象疾患はアルツハイマー病が多いが,混合型認知症,レビー小体型認知症の患者もいる。目的はBPSDの発症抑制とコミュニケーション能力の改善で,各種神経心理検査と介護者からの聞き取りを通して,音楽療法による効果を評価している。取り組みは現在進行中であるが,施療者・患者・家族ともに良好な手応えを感じている。

 
以上治療に音楽療法を取り入れている、三重大学附属病院の
佐藤 正之先生の文献をご紹介しました。

     倉敷北病院医局 宮原



音楽療法ってどんなことをするの?② 
 

あけましておめでとうございます、音楽療法士の上田です。
日に日に冬の寒さが厳しくなってきていますね。
みなさま、風邪にはお気をつけてくださいませ。


今回も、音楽療法ってどんなことをするの?ということで
音楽療法の活動例を少しのぞいてみましょう♪



今回は身体機能や社会性を保つという目標で、活動を考えてみました。
身体機能を保つためには、体操がすぐに思い浮かぶのですが、
ここでは、楽器を使った活動を1つご紹介いたします。



例えば、パーキンソン病などで、歩行時に腕の振りが極端に少ない方に対して
腕をふるというエクササイズを行うとします。
音楽療法士は、腕をふる動きの最終地点(前後共)に楽器を設置して
その楽器を歩く時の腕をふる動きとまったく同じ動きで叩いていただきます。



このように動きの最終地点に楽器を置くことで、どこまで動かすのかの目印になり、
さらに実際に叩くことによって音で自分の行動の結果が返ってきます。


実際に普通の訓練だと、目標の位置まで動かせたかどうかは
目で確認するしかないのですが、
耳でも確認することで、
より、脳にこの動きをインプットすることができます。



ここで、大事なのは、どれだけ上手に演奏できたかという点ではなく、
目的の行動が音楽の中でできているかという点です。

仲間と一緒に楽器を演奏していると楽しくて、
いつもより長く運動ができていたとか、

苦痛に思っていたことが、
音楽があるといつの間にかできていて目標達成していた。
という方も多くいらっしゃいます!


 コラム音楽療法、医局から余談を 
 

 今回の音楽療法のお話は、最近の神経学的音楽療法の分野の内容ですね?
パーキンソン病とか出てくると、なんとなく分かりやすい気がしました。
 リハビリなどでも、対応する脳の場所で

 感覚運動領域に働きかけるもの:パーキンソン病などに対応
 言語領域に働きかけるもの:失語症などに対応
 認知領域に働きかけるもの:以前回想法など紹介されていましたね。

一寸視覚的に訴えますと・・・
 昨年12月26日のブログで、何となく載せていた画像ですが紫やら青やら
黄色などに塗られた領域の多くの部分を占めるのが感覚運動野、この領域の中で
真ん中あたりの狭い領域で脳の左右に別々にあるのが言語野(中枢)、脳の前の
方(このイラストで左側の赤い所)がものを認知するのに重要な場所になります。
(厳密にいうともっと複雑ですが)アルツハイマー症に関係する海馬も、この
図の中にあらわされていますが、分かりにくいのでよろしいです。
 
 今回のパーキンソン病に関する手法は、この感覚運動領域に関系するものだと
思われますが・・・割合研究・知見の多い分野のようです。音楽療法で提唱される
おおむね20・・・19でしたね、正確には・・・のうち、3っつほどのセラピー
があったと思いますが、それ以上はよく知りません。セラピストの領域になるので
しょうね。

 パーキンソン病に関しては、薬のノバルティスファーマさんに音楽療法のパンフ
レットをみせてもらったことがあります。順天堂大学医学部附属浦安病院 リハビリ
テーション医学研究室 教授/医学部 神経学講座 教授 林 明人 先生の「音楽療法」
のパンフレットで、調べてみるとこのページに、同じ内容が紹介されていました。

 林 明人 先生というと、音楽CDを聞いて治療しようという本(CD付)をだして
おられますね。一度聴いてみたいと思っています。

 一般的な音楽の活用の面では、この聴くという事がよく言われます。効能はまだ
はっきりした知見に乏しい所もありますが、病院機能評価にも待合室でBGMを流
している・・・という項目が入っていますし、倉敷市内の近隣の病院でも、医局の
先輩がホスピスを開設して、ピアノ曲を流しているとお聞きしたことがあります。

 メディカ倉敷北でも、餅は餅屋ということで館内の音楽環境は音楽療法士に
お任せです。選択の基準がよく分からないので、昔から音楽療法というと必ずと
言っていい程でてくるバロック音楽、モーツァルト、グレゴリオ聖歌やヒルデガ
ルド・フォン・ビンデンなど趣味を兼ねて?・・・、ジャンルもジャズやその他
1000枚位のCDを準備しているので、頑張って良い結果を出して下さい。

 ずいぶん長くなってきたので、このあたりで・・・おやすみなさい。

       医局の宮原でした