7.文献ー1

 
              (左)ブーグロー「芸術と文学のミューズ」
               (右)アングル「ドーソンヴィル伯爵夫人」


 文献1

 

     これまで挙げたような各種スケールを利用した文献です。様々な分野に

    わたっていますが、当院の患者さんに共通する部分も多いので、面白く読め

    ると思います。



1..受傷前の身体・精神機能の情報収集

 受傷前の身体・精神機能の情報は,患者をよく観察していた者(家族など)から直接聴取した方が良い。高齢な患者からの聞き取りでは,知能低下の有無に関わらず正しい情報が得られない恐れがある。例えば,排泄の状態は患者本人に羞恥心が存在すると正確に答えない可能性がある。

 日常生活活動(以下,ADL)はKatz’s Index9)1;以下,KI)やBarthel Indexが参考となるが,各項目の自立か否かだけでなく詳細に評価する。移動手段についても同様である。また,受傷前の1日の生活リズム,行動範囲なども評価する。

1 Katz’s Index


評価項目:食事,尿便禁制,移乗,トイレへ行く,更衣,入浴の6項目

判定基準:自立と依存の2段階評価。監視,指示,介助を要するときは依存と判定する。患者が拒否する場合はできそうに見えても依存と判定する。

判定:

 A-全項目が自立。

 B1の項目を除いて全て自立。

 C入浴ともう1の項目を除いて自立。

 D入浴,更衣ともう1の項目を除いて自立。

 E入浴,更衣,トイレへ行くともう1の項目を除いて自立。

 F入浴,更衣,トイレへ行く,移乗ともう1の項目を除いて自立。

 G-全て依存。

 その他-上記CDEFに分類されず,かつ少なくとも2つの項目は依存


 精神機能の情報は主に知能の評価となる。よく用いられる改訂版長谷川式簡易知能評価スケール(以下,HDS-R)は,質問式であるがゆえに過去にさかのぼって評価できない。かえって行動観察式の評価,例えばClinical Dementia Rating(以下,CDR)の利用が望ましい。CDRは主たる介護者からの聞き取りでも評価できる。同時に,患者の趣味・愛好や性格の状況も聞いておく。

2..機能的評価

 基本的な評価項目は,2の通りである。機能的評価を身体機能と精神機能に大別する。機能的評価に先立って,患者に対する現病歴,既往歴,主訴などのインタビューを行う。

2 機能的評価の項目


身体機能の評価

1.基本姿勢・動作観察(荷重量により制限される)

 背臥位,長坐位,端坐位,立位の姿勢観察・重心位置の確認(前額面・矢状面)。寝返り,起き上がり,立ち上がり,歩行などの動作観察。

2.疼痛

 疼痛の部位・時間(1日中か,夜間のみか)・種類(安静時痛,運動時痛,触圧痛)など。

3.基本的身体機能の計測

 両側下肢の筋緊張,筋萎縮,大腿・下腿周径,関節可動域計測,徒手筋力検査,脚長差など。

4.運動能力検査

 平衡機能の評価(坐位または立位バランス)。体幹・下肢運動年齢検査(Moter Age Test),10m最大歩行速度(歩行可能な者)。

5.ADL

 Katz’s indexまたはBarthel Indexに基づく諸項目の評価。遂行の状況を詳しく評価。

精神機能の評価

1.意識障害

 Japan Coma ScaleGlasgow Coma Scaleを利用。

2.知的機能

 改訂版長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R),またはClinical Dementia RatingCDR)。

3.夜間せん妄,その他精神異常

 夜間せん妄の有無,継続日数など。


A.身体機能の評価

 2に挙げた項目を順に評価する。荷重制限により基本姿勢・動作の遂行範囲は限られるが,指示の理解,運動時痛,筋力の把握としても重要な情報となる。疼痛の評価では,その原因を明確にする。見逃しがちなのが視診,触診である。頚部骨折はinsufficiency fractureなどのspontaneous fractureを除いて大抵,転倒によって生じる。殿部を強打して股関節周囲の軟部組織損傷が起こっている場合も多いので,股関節周囲部の皮下出血,腫脹,圧痛などの確認も怠ってはならない。関節可動域(以下,可動域)の測定または筋力測定時に疼痛を訴える場合は必ずしも計測しなくて良い。大腿周径は浮腫の存在や筋萎縮の推定として有効な情報となる。部分荷重期に重要な役目を果たす非骨折側の下肢機能を評価することも必要である。

B.精神機能の評価

 知能の評価はHDS-R以外にCDRGBSスケールなども有用である。それぞれ特徴が異なり10),長所,短所があるため,併用するのが望ましい。

 一過性に生じたせん妄,入院による精神的ストレスなどから起こる精神不安定を痴呆と誤る可能性があるので注意する。夜間せん妄(または夜間不穏)は入院直後でも出現し,生命予後,歩行能力の予後に影響する11)12)。また,精神障害は薬物の副作用として現れることもあるため,服薬の情報を得ておく。ビタミン欠乏症や低K+血症などの電解質の異常も同様である。

国際QOL学会第1回環太平洋集会開催


 近年,QOLQuality of Life)に対する関心は医学・医療界にとどまらず,広く社会全般にまで拡がっている。そのような折り,さる413-15日の3日間,黒川清(東海大学医学部長)・福原俊一(京大教授)両会長のもとで,国際QOL学会(ISOQOL:The International Society for Quality of Life Research)の第1回環太平洋集会が,東京の都市センター会館において開催された。
 初の地区集会となった今集会は「The QOL research into the new millennium」をメインテーマに掲げ,特別講演「患者立脚型研究における健康アウトカムとしてのQOL」,パネルディスカッション「臨床試験のエンドポイントとしてのQOL」,教育セッション2題(「健康関連QOL尺度の経済的評価」,「インターネットによる健康アウトカム・モニタリング」),トレーニング・ワークショップ4題(「The SF-36」,「慢性閉塞性肺疾患(COPD)の健康関連QOL」,「癌におけるQOL」,「慢性腎不全におけるQOL」),シンポジウム3題(「ペイシェント・セイフティー」,「看護領域におけるQOL」,「高齢者,障害者のQOL」),ならびにアジア太平洋フォーラム「QOLの測定・解釈・適用におけるアジアの文化的問題」,難病財団主催による市民公開シンポジウム「難病とQOL」(本紙2437号にて既報)の他,サテライト・シンポジウム,ランチョン・セミナー,ポスター・セッション,一般演題などにおいて多彩なテーマが企画された。
 また「QOL研究」が持つ多次元的要素を反映し,医師・医療従事者の他にも,QOL研究に関心を抱いている社会学,心理学,疫学,統計学,経済学,政治学などの多分野の研究者が一堂に会し,QOL研究をめぐるさまざまな問題に関して多面的なアプローチが試みられた。本号では,特別講演を中心にその一部を紹介する。

 


「患者立脚型アウトカム」と「健康関連QOL

アウトカム研究におけるQOL

 Lee Goldman氏(米国・カリフォルニア大)による特別講演では,QOL研究の根幹的課題である「患者立脚型研究における健康アウトカムとしてのQOLQOL as a health outcome in patient-oriented research)」がテーマとして取り上げられたが,福原氏は近著『臨床のためのQOL評価ハンドブック』(池上直己他・編/医学書院刊)において,アウトカム研究の歴史的動向を次のように素描している。
 (1)1800年代末(Nightingale:医療の質の系統的評価),(2)1965年~(Donabedian:医療評価モデル),(3)1975年~(Wennberg:Practice variation study),(4)1985年~(患者立脚型アウトカム測定尺度の開発),(5)1990年~(患者立脚型アウトカムを用いた研究の活発化)。
 また同書の「いま,なぜQOLか-患者立脚型アウトカムとしての位置づけ」において,アウトカム研究におけるQOLに関して次のように述べている。
 「これまで,多くの疫学研究や医療評価研究において罹患率,死亡率に代表されるアウトカム指標が重用されてきたのは,定義が明確であり,万人に共通の指標であるがゆえに,さまざまな比較,例えば,異なる群間の比較や,異なる治療介入による効果の比較に活用できたからである(略)。
 ところが1980年代に本格化したアウトカム研究では,これらの伝統的な評価指標・アウトカム指標から一歩踏み込んで,住民および患者の主観的な評価指標を重要視することを大きな特徴としてきていた。この主観的な指標の重要性がより明確に認識されるにつれ,種々のアウトカム研究が急速に取り上げられるようになり,<患者立脚型アウトカム(Patient-based outcomes)>と呼ばれるまでになった。アウトカム研究において,この患者立脚型アウトカム研究を最も代表するものが,健康関連QOLということになる。
 1980年代は,この患者立脚型アウトカムを測定するための指標・尺度とその計量心理学的な検証のために,多くの研究者の時間とエネルギー,そして研究費が費やされたと言ってよく,このことをみても,近年の医療評価研究においてこの患者立脚型アウトカムの1つであるQOLがいかに重要視されるようになったかが見てとれる」

「健康関連QOL」について

 また前掲書によれば,アウトカム研究の新しい流れが,QOLを「医療評価のための患者立脚型アウトカム」として明確に位置づけられ,従来の客観的な評価指標にはない画期的な特徴を持つ指標として重要視されたきた背景および意義には,次の諸点が考えられる。
(1)
疾患分布の変化(急速に進む高齢化と医学の進歩による急性疾患の減少によって,慢性疾患が大きな比重を占めるようになり,治癒や延命よりも患者の生活の質の向上が治療の目標とされる)
(2)
患者中心の医療(医療現場において,情報の開示や自己決定権の尊重が強調されているが,医療の評価においても,患者の視点に立ったアウトカムであるQOLこそが重要であると考える)
(3)
健康に関するパラダイム・シフト(「疾病を治癒・克服することによって達成できる」というパラダイムから,「健康の維持・増進が重要である」という新しいパラダイムの誕生)
(4)
医療資源の有限性に対する認識(医療の体系的・科学的な評価を行なう今日のアウトカム研究隆盛の原動力となる)
 一方,健康関連QOLを測定する尺度は,効果値などを測定する選好に基づく尺度と,健康を多次元的に測定するプロファイル型尺度に大きく分類される。
 前者は,効用値を測定する目的のためにQOLを一次元で表わすのに対し,後者はQOLに含まれるさまざまな領域(domain)を1つにはまとめず,多次元(multi-dimension)のままに表現しようとするもので,これはさらに(1)症状インデックス尺度,(2)包括的尺度,(3)疾患特異的尺度に分類され,これらの尺度の例,使用に適した研究,特徴などをまとめると()のようになる。

表:健康関連QOLを測定する尺度の分類

分類

尺度例

適した応用

特徴

選好に基づく尺度

EQ-5DHUI

臨床試験,医療経済研究

単一指標

プロファイル型
  
症状インデックス
  
包括的尺度
  
疾患特異的尺度


AUA
SIP
SF-36
KDQOL

Asthma-QOL


臨床試験,診療
臨床試験,疫学研究
臨床試験


臨床的意義
標準値を得られる
反応性,臨床的意義

AUA=米国泌尿器学会が開発した前立腺の症状スケール)

(『臨床のためのQOL評価ハンドブック』より)


【編集室註】EQ-5D=EuroQol. HUI=Health Utilities Index. SF-36=Mos-Short Form. SIP=Sickness Impact Profile. KDQOL=Kidney Disease QOL.



パーキンソン病患者におけるSF-36の信頼性の検討

研究協力者  久野 貞子(国立療養所宇多野病院臨床研究部)
共同研究者  和田 さゆり(東京大学大学院教育学研究科)
       水田 英二、山崎 俊三(国立療養所宇多野病院神経内科)
       福原 俊一(東京大学大学院医学系研究科)

目的
パーキンソン病の病因に関する最近の研究成果にはめざましいものがあり、遺伝素因(文献17)を基に、外因要因としての神経毒(文献811)が関与し、さらにフリーラジカルの形成(文献1214)、ミトコンドリアのエネルギー産生障害(文献1517)を来たして、アポトーシス(文献1820)などの細胞死に至るメカニズムが考えられている。これらの病因仮説に基づいた治療法の試み(神経細胞保護療法)も臨床応用されようとしている。一方、パーキンソン病治療の臨床においては、L-dopaなどの対症治療法の開発とともに、患者の生命予後は改善してきた(文献2123)。しかし、L-dopaの長期治療中に生ずるさまざまな問題点(効果減弱、安全治療域の狭小化、L-dopaに反応しない症状)は現在においても対応が不十分であり(文献24,25)、新しい治療法開発が待たれている。
難病患者を含めた長期慢性疾患患者の治療の目標は、延命のみでなく、生存中のQOLを維持・増進させることも重要である。しかし、難病患者が自分のQOLをどのようにとらえているか、定量的に測定した試みは少ない。神経難病の中でも最も症例数が多く、かつ罹病・生存期間も長期にわたる疾患であるパーキンソン病患者のQOLを測定定量化することは、非常に意義があり、重要であると考える。
QOL
の評価尺度は、ものさしとしての最低限の特性が要求される。しかしQOL尺度を用いた定量的な方法は、gold standardを有する生物学的な指標と異なるので、尺度の信頼性や妥当性を直接証明することはできない。そのかわり、計量心理学の手法を用いて、尺度の検定をすることは可能である。今回の研究は、代表的な包括的健康関連QOL尺度のひとつでありすでに一般人やいくつかの慢性疾患患者において計量心理学的な検証を終えているSF-36を用いてパーキンソン病患者のHQOLを測定し、この尺度が、パーキンソン患者においても信頼性があるかどうかを確認する作業を行った。

方法
<
対象>
国立療養所宇多野病院神経内科受診中の特発性パーキンソン病(文献27)と診断された149名とした。(うち外来患者は127名、入院患者は22)。なお、サンプルの平均年齢は65.08(標準偏差9.32)であった。
<
データ蒐集>
担当医師に対する記入シートと、患者自身に向けた質問表の二つより蒐集した。医師データは、ミニメンタルテスト(文献28,29)、病型、併存症などをあわせて記録した。患者データは、SF-36およびその他の指標を質問紙に原則として自己記入させた。ただし、振戦などで記入が不可能な場合は、患者の意見を患者の家族などに記入してもらった。尺度の安定性に関しては、再検査信頼性を求めた。この目標の為に対象のうち68名に対して、初回測定の10日から2週間の間隔を置いて、2度目の測定を行った。
<SF-36
質問紙>
SF-36
は、Ware等(文献26)によって開発された包括的HQOL尺度であるが、近年国際プロジェクトの一環として日本語に翻訳され、異文化適合(crosscultural adapatation)や計量心理学的検定や標準化等の作業を終了している。SF-36は、36個の質問項目より構成され、原則的に自己記入方式をとっている。(ただし、面接のversionもある)SF-36の特徴として、健康人、病人、病気の種類にとらわれない一般的な健康関連QOLを測定する尺度であること、多次元の尺度であること、16才以上の誰にも理解できる平易な表現、質問項目が少ないため短時間で記入可能、等があげられ、国際的に多くの研究で主観的な健康度測定に用いられている。 SF-36のスコア化は、8つの下位尺度(サブ・スケール)仮説に基づき毎に行われ、通常合計点として要約されることはない。(2つのsummary scoreに要約する試みは既に行われている。) 表にSF-36の8つの下位尺度(サブ・スケール)の解説を示す。
<
データの解析>
SF-36
関しては、36項目に対する回答を8つのサブ・スケール:PF(身体機能)RP(身体機能不全による役割の制限)BP(体の痛み)GHP(全体的な健康感)VT(活力)SF(健康状態の変化による社会機能の制限)RE(精神状態の変化によ る役割の制限)MH(精神状態)に分類し、100点満点に換算する通常の方法をとった。各サブ・スケールの内的整合性信頼性に関しては、Cronbach’s α係数を求めた。また、初回と二回目のQOLのスコア相関係数を再検査信頼性として求めた。

結果
対象149名のうち、再検査を行った者は68名であった。ミニメンタルテストの合計得点が24点以下の者は10名であった。SF-36の各サブ・スケール毎に、半数以上の項目に回答未記入のものは欠損値として扱った。各サブ・スケールの内的整合性信頼性(Cronbach’s α係数)は、以下の如くであった。

要因

 PF 

 RP 

  RE  

 SF 

 MH 

 BP 

 VT  

 GH 

痴呆

0.93

0.86

0.88

0.65

0.79

0.79

0.71

0.70

 この信頼性を、ミニメンタルテスト低得点(≦24)を入れた群と除いた群で比較したが、殆ど差は認めなかった。
再検査信頼性を満たす下位尺度はPF(0.892)のみで、その他の尺度は0.4960.672の範囲にあり、十分な値ではなかった。

考察
SF-36
の原版の下位尺度得点のスコアリングには、いくつか統計的な問題が含まれているが、SF-36の項目のうち1つでも欠損値のあったオブザベーションを分析からはずすという厳密な方法をとると、パーキンソン病サンプルのうち約半数弱を失うことになる。これに対し、原版通り各下位尺度に含まれる項目の半数以上に回答のあった場合は本人の当該尺度における平均値によって欠損値を補う方法をとると、失うオブザベーション数は約一割強ですむ。したがって、本研究では原版通りのスコアリング方法を採用することにした。
SF-36
項目に欠損値をもつパーキンソン病患者サンプルの割合は、国民標準サンプル(0.57)IBDサンプル(0.10)、透析サンプル(25.20)に比べてかなり多い。これは年齢の影響も否定できないが、病気の深刻さが与える影響とも考えられ、今後さらに追究していく必要がある。
HQOL
の8つの下位尺度のCronbachα係数は0.6470.928の範囲にあり、項目数を考慮すれば十分信頼性があると言える。
 再検査信頼性で十分な値を満たす下位尺度は、身体機能以外殆どなかった。このことはパーキンソン病患者の日内変動が身体機能以外のHQOL尺度に影響を及ぼすためと考えられた。本調査の質問紙はオン・オフをに分けて同時にリッカート・スケール上に記すよう構成されていたが、この回答方法は難しく、データがほとんど得られなかった。今後は日内変動について回答しやすいように質問紙を工夫し、変動についての何らかの指標を構成するなどして、日内変動の影響を考慮した分析が望まれる。
 また、再検査信頼性は日内変動の激しい疾患では安定性の指標としてそのまま評価することはあまり意味がないが、HQOLのどの尺度(側面)がどの程度その影響を受けるのかを明らかにする上では十分意味のある指標と言える。再検査信頼性について詳細に検討を加えるならデータ数を増やす必要があるが、被験者の負担や尺度構成における最近の傾向を考えると信頼性についてはα係数のみで評価しても充分であると思われる。

文献

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SF-36サブスケールのスコアの解釈

サブスケール

スコアの解釈

 

Low

High

 

身体機能
(Physical functioning)

健康上の理由で、入浴または着替えを含むすべての身体活動を行うことが、とてもむずかしい

激しい活動を含むあらゆるタイプの活動を行うことが可能である

 

身体機能の障害による役割制限
(functioning physical)

過去一ヶ月間に仕事やふだんの活動をした時に身体的な理由で問題があった

過去一ヶ月間に仕事やふだんの活動をした時に身体的な理由で問題がなかった

 

痛み
(Bodily pain)

過去一ヶ月間に非常に激しい体の痛みのためにいつもの仕事が非常にさまたげられた

過去一ヶ月間に体の痛みはぜんぜんなく、体の痛みのためにいつもの仕事がさまたげられることはぜんぜんなかった

 

社会機能の制限
(Social functioning)

過去一ヶ月間に家族、友人、近所の人、その他の仲間とのふだんのつきあいが、身体的あるいは心理的な理由で非常にさまたげられた

過去一ヶ月間に家族、友人、近所の人、その他の仲間とのふだんのつきあいが、身体的あるいは心理的な理由でさまたげられることはぜんぜんなかった

 

全体的健康観
(General health perceptions)

健康状態が良くなく、徐々に悪くなっていく

健康状態は非常に良い

 

活力
(Vitality)

過去一ヶ月間、いつでも疲れを感じ、疲れはてている

過去一ヶ月間、いつでも活力にあふれていた

 

精神機能の障害による役割制限
(Role functional emotional)

過去一ヶ月間、仕事やふだんの活動をした時に心理的な理由で問題があった

過去一ヶ月間、仕事やふだんの活動をした時に心理的な理由で問題がなかった

 

精神状態
(Mental health)

過去一ヶ月間、いつも神経質でゆうつな気分である

過去一ヶ月間、おちついていて 、楽しく、おだやかな気分であった

 

Enblish abstract

Reliability of SF-36 Japanese version in patients with Parkinson’s disease

Sadako Kuno(1), Sayuri Wada(2), Eiji Mizuta(3), Syunzo Yamazaki(3), Shunichi Fukuhara(4)

  1. Clinical Research Center, Utano National Hospital, Kyoto 616, Japan
  2. Division of Education, Graduate School, The University of Tokyo,Tokyo, Japan
  3. Department of Neurology, Utano National Hospital, Kyoto 616, Japan
  4. Department of Internal Medicine, Division of Medical Science, Graduate School, The University of Tokyo, Faculty of Medicine, Japan

Key word:Health related Quality of Life, SF-36, Parkinson’s disease, internal consistency reliability, test-retest reliability, mini mental test

   Parkinsons disease is one of the most prevalent neurodegenerative diseases which have no radical remedy. The goal of the treatment of this disease is not only to prolong one’s life span but also to maintain or to improve patients’ Quality of Life (QOL). In Japan, there have been few reports to describe how patients with Parkinson’s disease perceive their own disease, especially quantitatively.
   This study’s objectives are:

  1. To measure health related QOL (HRQOL) of patients with Parkinson’s disease with use of global HRQOL instrument-SF-36 Japanese version.
  2. Prior to this measurement, we try to test reliability of this instrument in patients with Parkinson’s disease.

   One hundred forty-nine patients with diagnosis of Parkinson’s disease filled out the questionnaire of SF-36 Japanese version. Mean age of the subjects was 65 years old. We collected data from examining physicians regarding degree of dimentia with mini-mental test, type of the disease (tremor vs rigidity) and chronic comorbid conditions. Sixty-eight patients out of 149 were asked to fill out the same questionnaire with 10 day to 2 weeks interval.
   Scoring of SF-36 was done according to 8 sub-scale; PF(physical functioning), RP(role functioning physical), BP(bodily pain), GHP(general health perception), VT(vitality), SF(social functioning), RE(role functioning emotional), MH(mental health), and raw scores were converted so that each sub-scale’s full score equals to 100. For internal consistancy reliability, chronbach’s α was calculated for each subscale. For test-retest reliability, correlation coefficient between the first and the second measurement (scores) of respective subscale.
   Internal consistency reliability (chronbach’s α): PF 0.93, RP 0.86, BP 0.79, GHP 0.70, VT 0.71, SF 0.65, RE 0.88, MH 0.79. As a result of mini-mental test, 10 patient scored lower than 25 points out of 30 points. There was little difference in chronbach’s α between the patients’ group with lower mini-mental test scores than those with higher ones. For test-retest reliability, correlation coefficient for 8 subscales were relatively low with range between 0.496 to 0.672 in most subscales, except for PF with 0.92. Again, there was little difference in correlation coefficient between the patients’ group with low mini-mental score and high score.
   Result of chronbach’s α appear to be satisfactory considering the number of question items in each subscales, and SF-36 Japanese version was considered to have sufficient internal consistency reliability even in patients with Parkinsosn’s disease. This reliability was stable with different score of mini-mental test. On the other hand, test-retest reliability was not satisfactory except for that of PF. This result suggests that, in certain diseases with high degree of diurnal variation of symptoms such as Parkinson’s disease, test-retest reliability may not be a meanigful for indicator of stability of the instrument. However, this could be an excellent indicator to identify which dimension or element of HRQOL can be most affected by this kind of variation. Given satisfactory value of chronbach’s α, it is suggested that SF-36 can be used for patients with Parkinson’s diseases, but better format of questionnaire, which can take account of diurnal variation of the symptoms, could improve performance of this instrument.



潰瘍性大腸炎患者のQOLにおよぼす諸因子の検討

班員     岩男泰(慶應義塾大学消化器内科)
共同研究者  渡辺守(慶應義塾大学消化器内科
       日比紀文(慶應義塾大学消化器内科)
       上野文昭(東海大学大磯病院内科)
       杉田昭(国立横浜病院外科)
       宮原透(防衛医科大学校第2内科)
       橋本英樹(帝京大学第2内科)
       大橋靖雄(東京大学医学部疫学生物統計学)
       福原 俊一(東京大学医学部国際交流室)

はじめに

 炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎およびクローン病)は、いまだ根本的な治療法のない原因不明の難治性慢性疾患である。戦後、本邦において急速な増加がみられており、その多くが若年に発症し、増悪・緩解を繰り返し、長期経過のなかで手術を必要とすることも多い。
 従来、治療効果の評価としては検査所見、臨床症状の推移などが論議されてきた。しかし、慢性の経過をたどり、病状が消長を繰り返す本症は、その治療に際して精神状態や社会的な活動状況などを考慮に入れた患者の生活の質、すなわちQOLの向上に目標が置かれるべき代表的な疾患といえる。 本研究は、本邦における炎症性腸疾患のQOLの測定・評価法の開発・確立が目的である。今回、健康関連QOLの調査表として既に信頼性や妥当性が証明されているSF-36日本語版を用いて、潰瘍性大腸炎患者を対象にアンケート調査を行うことにより、SF-36が本邦における潰瘍性大腸炎のQOL尺度として使用可能かどうかの信頼性の評価を行うとともに、QOL尺度におよぼすと考えられる代表的な諸因子の影響についても検討を加えた。

対象

 調査期間は199611月の一ヶ月間とした。対象は当研究班の班員および研究協力者の所属する4施設に通院または入院中の潰瘍性大腸炎患者207症例である。いずれも厚生省の班会議の診断基準に従ってX線、内視鏡、病理学的に診断を受けたものである。対象の患者背景(表1)は男性109例、女性98例、平均年齢40.2歳、平均罹病期間8.3年、平均入院回数1.8回、平均再燃回数2.4回、既手術例26例であった。なお、病型は全大腸炎型104例、左側結腸型66例、直腸炎型31例、罹患範囲は再燃緩解型130例、慢性持続型36例、初回発作型36例であり、他は現在の診断基準では分類困難な症例であった。

方法

 調査方法としては、SF36質問表の日本語版を用いてアンケート調査をおこなった。アンケートの方法は患者さんのプライバシーの保護を考慮し、無記名で封筒にいれて主治医以外の者が回収することを原則とした。また、同時に患者背景やQOLに影響とする可能性のある事項についても同時に調査を行った。調査項目を表2に示す。SF-36調査表は1. 身体機能(Physical Functioning; PF)2. 身体機能制限による役割制限(Role Functioning – Physical; RF)3. 体の痛み(Bodily Pain; BP)4. 全体的な健康感(General Health Perceptions; GH)5. 活力(Vitality; VT)6. 健康状態による社会機能の制限(Social Functioning; SF)7. 精神状態による役割制限(Role Functioning – Emotional; RE)8. 精神状態(Mental Health; MH)8つのサブスケールで構成されており(表3)、それぞれ尺度得点が算出できるようになっている。今回の研究におけるSF-36調査表を用いたQOLの定量的評価の方法として、各サブスケールごとに、先行研究において既に示されている国民標準値を対照とし、年齢、性別にる補正を行った患者の得点と国民標準値の差、すなわち差得点によってQOLの評価を行った。差得点の平均値の差の検定は病型、罹患範囲など3群以上の変数に関しては分散分析でそれぞれの変数全体の有意差をもとめ、さらに各群の比較をTukeyの多重比較を行った。その他の2群比較はすべてt-検定でおこなった。

結果

  1. 潰瘍性大腸炎患者におけるSF-36の信頼性の検討。
     8つのサブスケールの全てにおいてCronbach’ alpha係数は0.80以上を示し、それぞれのサブスケールにおいて質問項目の内的整合性すなわち信頼性は高いと考えられた(表4)。
  2. 差得点による国民標準値との比較
     QOLの評価は国民標準値との比較による差得点で行った。これは、個々の患者さんの各サブスケールごとの得点を年齢・性別補正を行った後、国民標準値との差を算出し平均したものである。潰瘍性大腸炎患者の差得点は、PFPhysical Functioning)を除く全てのサブスケールで低く、国民標準値との間に有意な差(p<0.001)が見られた(図1)。
  3. 病型、罹患範囲、重症度別に見たUCSF-36尺度得点
    病型別にみた検討では、いずれのサブスケールにおいても統計学的な有意差は認められなかった(図2)。罹患範囲別ではRPにおいて有意の差を認め、さらに多重比較を行うと全大腸炎型と直腸炎型との間にのみ有意差(p<0.05)がみられた(図3)。また、厚生省の重症度分類で軽症と中等症・重症とに分けて検討すると、BPVTp<0.01RPREGHp<0.05と有意差を認めた(図4)。
  4. 臨床症状でみたUCSF-36尺度得点
     便回数で2回以上と3回以上の2群に分けてみると、RFREを除くサブスケールで有意差がみられた(図5)。粘血便の有無からみると、BPGHVTREMHで有意差がみられ、特にGHでは強い有意差(p<0.001)がみられた(図6)。腹痛の有無ではBPにおいてp<0.001GH VTREp<0.01MHではp<0.05と有意差がみられた(図7)。
  5. ステロイドに関するUCSF-36尺度得点
    ステロイド投与の有無からみたUCSF-36尺度得点ではPFGHで有意差(p<0.01)がみらえた(図8)。ステロイド離脱困難例であるか否かでみると、GHp<0.001)VTp<0.01)SFp<0.05)で有意差がみられた(図9)。

考察・結論

 近年、特に慢性疾患の診療にあたって、QOLを考慮した治療評価の必要性が指摘されている。炎症性腸疾患は長期にわたり再燃を繰り返し、慢性の経過をたどる難治性疾患であり、腸管および腸管外合併症の頻度も高く、手術を要することも多い。また、消化管に病変を持つ特殊性から、治療のため強い食事制限を必要とすることも多い。このような炎症性腸疾患の診療に際して、QOLを十分に評価しQOLの向上を目指す必要性は他の疾患にもまして高いといえる。既に欧米では疾患特異性を持つQOL測定尺度の開発が試みられ、その応用も既に報告されてきた。しかし、本邦においては一部のpilot studyがおこなわれた以外には、本邦の実状にあった信頼性や妥当性が検証された測定法の開発はいまだなされていないのが現状である。今回、既に健康関連QOL調査表として他の疾患において用いられているSF-36調査表の日本語版を使用して潰瘍性大腸炎患者を対象にアンケート調査を行い、調査表の信頼性を検討するとともにQOLの評価を行った。さらにQOLに影響をおよぼすと考えられる代表的な臨床的諸因子についても検討を加えた。
 まず、SF-36質問表の信頼性の検討では、構成する8つの全てのサブスケールにおいてCronbach’s alpha値は0.80以上であり、内的一貫性(信頼性)は高いと考えられた。残念ながら時間的な制約からre-testは施行できず、再現性の検討は出来なかった。
 実際に本調査表を用いたのQOL評価として、本症におけるSF-36の尺度得点を国民標準値との比較による差得点でみてみると、身体機能(PF)を除くすべてのサブスケールで有意に低い(p<0.001)という結果がえられた。PFで国民標準値との間に差がみられかったことは、潰瘍性大腸炎患者の場合、他の難病と異なり身体機能に異常のある患者さんは少ないことを考えればうなずける結果である。一方、患者の多くが比較的若年者であり、身体機能に問題がなく外見的には全く健康人と変わらない本症患者において、主観的に見たQOLPFを除く全てのサブスケールで有意に低下していることが示されたわけであり、本症の診療におけるQOLの評価の重要性を再認識させる結果とも考えられた。
 次に本症患者のQOLに影響を及ぼしていると考えられる諸因子別に検討を加えた。これらはいずれも、本症の診療にあたって活動性を評価したり、予後を予測する因子として重要なものである。病型別では各群間に有意な差はなく、罹患範囲別の検討ではRPにおいてわずかに直腸炎型と全大腸炎型との間に差が見られた以外、全く有意差が見られなかった。従来、治療に当たって重症度や予後を判定してきた重要なこれらの分類で差が見られないことは意外な結果であった。しかし、罹患範囲の広さにかかわらあず、直腸に病変が存在することは共通であることを考えると、本症においては直腸病変の存在、そこから生じる症状や問題がQOLに大きな影響をおよぼしている可能性が示唆するものといえよう。重症度別の検討では重症例が7例と少なく、軽症と中等症・重症の2群間で検討したが、やはり多くのサブスケールで尺度得点で有意差がみられた。なお、内視鏡的重症度は、活動性を評価し治療内容の決定や予後判定をする上でも重要な因子であるが、調査直前の内視鏡的重症度を判定し得るものは少なく欠損値が大きいため、今回の検討から除外した。
 本症の主症状は下痢、粘血便、腹痛であり、いずれも活動性を評価し治療内容を決定する重要な項目であるが、いずれもほとんどのサブスケールで有意差がみられた。腹痛の有無ではBPで強い有意差がみられたのは当然であるが、粘血便の有無でみた場合に、GHで特に強い有意差(p<0.001)がみられたことは、排便時に出血がみられることの一般的な健康観におよぼす影響の強さが推定され興味深い。
 一方、治療面からの重要な点として、治療薬による影響どのようにあらわすかは、QOLを見ていく上で非常に重要な問題点である。今回はステロイド投与の有無、ステロイドの離脱困難であるか否かで解析を試みた。ステロイド投与の有無ではPFGHで、ステロイド離脱困難例ではGHVTSFで有意差が見られた。実際にはステロイドの有無が必ずしも、症状や病勢を反映するわけでなく、その背景も様々であり評価は困難であるが、GHで共通して有意差が見られ、特に離脱困難例ではp<0.001で有意差が見られたことは、治療薬、特にステロイドの投与を受けていることからくる漠然とした不安を表している可能性も否定できず、今後の検討課題と考えている。
 以上、本症の診療上使用してきた活動性や重症度の基準の多くは、QOLを反映していたと考えられたが、逆にそうでないものや、比較的軽視していた事項が患者の主観的なQOLに影響をおよぼしている可能性も示唆された。今後重回帰分析や、他の背景因子、臨床的因子に関しても解析を行い、さらに疾患特異性を持つ適切な質問項目を加えたQOL測定法の開発により、潰瘍性大腸炎患者のQOLがより正確に評価できることが期待される。

参考文献

  1. Guyatt G, Mitchell A, Irvine EJ, et al: A new measurement of health status for clinical trials in inflammatory bowel disease. Gastroenterology 96: 804-810, 1989.
  2. Rove JR, Irvine EJ amd Fedorak RN: Quolity of life in inflammatory bowel disease. J Clin Gastroenterol 14: 15-19, 1992.
  3. Irvine EJ, Feagan B, Rochon J, et al: Quolity of life: Avalid and reliable measure of therapeutic eficacy in the treatement of inflammatory bowel disease. Gastroenterology 106: 287-296, 1994.
  4. Turnbull GK and Vallis TM: Quolity of life in inflammatory bowel disease: The interaction of disease activity with physichosocial function. Am J Gastroenterol 90: 1450-1454, 1995.
  5. Ware J and Sherbourne CD: The MOS 36-item short-form health survey(SF-36). Medical care 30: 473-483, 1992.