4-2.FIMの資料

      
                大谷郁代「gift]」
         メディカ倉敷北オープンの時ロビーにかけていました。


 FIMの使用頻度

 

米国ではUDSに登録された患者数が公表されています。

Fiedler RC, Granger CV: Uniform data system for medical rehabilitation; report of first admissions for 1996. Am J Phys Med Rehabil 77: 69-75, 1998

Granger CV, Hamilton BB: UDS report: the uniform data system for medical rehabilitation report of first admissions for 1990. Am J Phys Med Rehabil 71: 108-113, 1992

この間も毎年Am J Phys Med Rehabilに発表があります。

日本では公式統計がありませんが、リハ学会評価基準委員会の報告で、1995年度のリハ学会演題の中でFIM12%Barthel25%の次に使われていました。専門医と評議員へのアンケートでは適切な評価法として、FIM 12%, Barthel 17%, FIM&Barthel 37%との回答があります。米本恭三、西村尚志: ADL評価に関するアンケート調査報告共通のADL尺度を求めて -. リハ医学34: 456-459, 1997

 
9804 Shigeru Sonoda

 QOLとFIM


 

QOLFIM

7QOLADL研究大会(2000.10 札幌)でのシンポジウム発表を元にして

 

園田 茂

はじめに

 QOL(生活の質)向上のためにADL(activities of daily living)評価を活用する、この主題には多くの研究者が取り組んでいる。ADL評価とQOLはあまり関係しない、という報告もあれば(1,2)、関連するとした論文もある(3,4)

 これまで使われてきたADL評価法も、QOLの概念もさまざまである。今回、ADL評価法として世界で最も使われてるFIM (Functional Independence Measure)(5,6)を取り上げ、QOLとの関わりを論じる。QOLの捉え方も多様である(7)が、ここではMuldoonらの示しているように客観的QOL と主観的QOL を合わせ(1)(8)、なるべく大きく捉えることとする。介護者のQOLという観点もあるが、ここでは患者本人のQOLとする。このように検討条件を確定することで少しでも明解な議論が出来るであろう。

 

 

FIM

 1983年に米国アメリカ医学会がADLについてtask forceを行った際、既存のADL評価法では十分でないとの結論に達し、新たにFIMが作られた(5)。当初は介助レベルが3段階であったが、より細かなADLの変化を捉えるために介助監視レベル5段階(全体で7段階)評価に変更された。

 評価項目、評価基準を表2に示す。運動項目とともに認知項目のあることがもう一つの特色である。評価基準は「できる」ADLでなく、「現実にしている」ADLを測定する取り決めとなっている。FIMの信頼性(誰が採点しても同じ点となるか)1018名の患者を用いて検討され、全体のICC (Intraclass correlation)0.96、各項目のkappa0.53から0.66であり(9)、信頼性が高いと考えられる。FIMの妥当性(測るべきものを測っているか)は既存の標準的ADL評価法Barthel indexとの相関が高いこと(10)や、介護時間が長いほどFIMが低い点となること(3,11-14)などにより証明されている。


ADLの採点そのものの注意点

 ADLQOLへの影響を考える以前に、ADLの採点自体に問題がないか検討しておかなければならない。ADLはだれがどう採点しても同じ結果が得られるのだろうか。


 この検証は採点基準の明確さの問題のみと捉えられがちである。しかし実はADLを採点する際、検者の観察不足による検者間不一致の方が起こりやすい。月が瀬リハセンターで看護婦と作業療法士間でFIMの検者間一致の検討を行った際、FIMの定義自体の問題、検者のFIM不勉強、2検者の採点日時のずれによる不一致よりも、検者が患者の日常生活を十分に観察していなかったことによる不一致のほうが多かった。このことは研究の解釈時のみならず、実際の臨床上、肝に銘じておかなければならない。

FIMと介護時間

 FIMのマニュアルでは介護負担を測る、と明言している。実際に介護負担を測定できているのだろうか。

 介護負担の検討は、タイムスタディを用いてGrangerらにより、頭部外傷、脳卒中、多発性硬化症で行われている(3,11,12)。日本では才藤ら(13)、新村ら(14)が検討している。その結果を表3に示す。少なくともFIM 合計点が高くなれば介護時間が減ると言えよう。しかし、その関係は必ずしも直線的ではない。また、疾患ごと、研究ごとにFIM 1点あたりの介護時間が異なってくることも知っておくべきである。

3 FIM 1点あたりの介護(看護)時間

対象疾患 (研究者)

時間()

a. 脳卒中 (Granger)

2.2

b. 脳卒中 (才藤)

1.6

c. 多発性硬化症 (Granger)

3.4

d. 頭部外傷 (Granger)

5.1

e. 神経系疾患 (Disler)

4.5

f. 脳卒中・脊髄損傷他 (新村)

2.4 (a)

 

1.7 (b)

 

 

(a)は、FIMに定義されている行動に関わった時間 / (b)は、(a)以外の行動に関わった時間

FIM運動項目とQOL

 ADLQOLへの関与について、過去の論文では、「ADLの低いことがQOLに影響するか」、「退院後のADLの改善または低下がQOLの変化に関連するのか」、といったテーマで論じられている。結論は種々であり、一定の傾向を持たない(1-4)

 

 前述の介護時間の面を考えるとADLQOLは強く相関しそうである。そう一律にならない一因としては、八並らの脳卒中後の検討のように(15)、すでにプラトーに近い患者での調査がこれまで多かったことがあげられよう。ある程度以上のADLレベルに到達していればADLの得点差のQOLに対する寄与は小さくなる。すなわち、対象者のレベルなど調査集団特性の違いが結果に大きく影響する。

 QOLに影響する因子は多様であり(16,17)ADLQOLに関係するのは、社会的不利を介してであることが多い(1)。一般にADLの社会的不利への寄与は必ずしも高くないため、この観点からはADLQOLとの関係の不確定さは当然ということになろう。

見守りとQOL

 実際の身体的介助量はゼロである「見守り(監視)」の必要性とQOLとの関係は少々複雑である。Grangerらの頭部外傷患者を対象とした満足度の研究では、監視の程度を常時監視・ときどき・なしに分類すると満足度に有意差があるとしている(11)。また、常時監視患者を除くと満足度を抑うつスケールで予測できるのに常時監視患者を含めると予測精度が落ちる、とも述べている。

 すなわち、ADL評価では通常、実際の介助をする方が見守るときよりも負担が少ないと仮定するが、QOLの面からは、短時間で介助して貰った方が、長く見守られるよりはよい場合もある、ということであろう。

FIMの予測

 たとえば米澤らは、脳卒中リハを終えて退院した患者のFIMの変化を調査した(18)。退院時のFIM運動項目合計点が70点台であると退院後の改善または悪化が見られやすかった。

 

 これは、70点台という患者が、介助でも自立でもなく、監視レベルの項目をいくつか含んでいたためである可能性がある。家に帰ると、動作が危なっかしかったり時間が足りなかったりするとつい家族が手伝ってしまったりする。逆に厳しい家族だと、監視レベルの活動が徐々に自立に変わる。このような変化を来しやすいレベルが70点台なのである。このような変化はQOLに直結すると思われる。

FIM

 1983年に米国アメリカ医学会がADLについてtask forceを行った際、既存のADL評価法では十分でないとの結論に達し、新たにFIMが作られた(5)。当初は介助レベルが3段階であったが、より細かなADLの変化を捉えるために介助監視レベル5段階(全体で7段階)評価に変更された。

 評価項目、評価基準を表2に示す。運動項目とともに認知項目のあることがもう一つの特色である。評価基準は「できる」ADLでなく、「現実にしている」ADLを測定する取り決めとなっている。FIMの信頼性(誰が採点しても同じ点となるか)1018名の患者を用いて検討され、全体のICC (Intraclass correlation)0.96、各項目のkappa0.53から0.66であり(9)、信頼性が高いと考えられる。FIMの妥当性(測るべきものを測っているか)は既存の標準的ADL評価法Barthel indexとの相関が高いこと(10)や、介護時間が長いほどFIMが低い点となること(3,11-14)などにより証明されている。

2000.10.24 Shigeru Sonoda

 


 

FIM認知項目とQOL

 認知機能は、運動機能とは別にQOLに関与する。うつ状態とQOLの低下との関連は良く知られている(12,17)。また、適応行動の能力が低いと、結果的にやりたいことがうまくいかないため、QOLが下がる。

 中島らは、脳卒中患者においてFIMの認知項目が適応行動尺度(ABS: adaptive behavior scale)のスクリーニングテストとして用いうることを示している(19)。理解・表出の合計点がコミュニケーション能力と、社会的交流・問題解決・記憶の合計点が認知能力とよく相関するのである。FIMの認知項目は採点用具も不要なこと、採点のための特別な時間は不要で通常の病棟業務で接しているときの情報から採点可能であることから、適応行動能力を知るための便利な方法である。従って、FIMの認知項目は適応行動の面からQOLとかかわりが深い。

 より社会的不利に寄った認知項目としては、FIMと同一の採点基準を使うFAM (Functional Assessment Measure)という評価法が、Hallらにより開発されている(4)(20,21)。開発の母胎は、Santa Clara Valley Medical CenterTBI-SCI project (頭部外傷・脊髄損傷プロジェクト)である。FAM自体の評価は定まっていないが、簡略に認知系を調べられるという点では魅力的である。

4 Functional Assessment Measure (FAM)

 

 

FIMに加えられる運動項目

嚥下

輸送機関利用

自動車移乗

 

 

 

FIMに加えられる認知項目

読解

雇用・家事・学業

文章作成

見当識

会話明瞭性

注意

感情

安全確認

障害適応

 

2000.10.24 Shigeru Sonoda

文献


1. Be’houx F, et al: Changes in the quality of life of hemiplegic stroke patients with time: a preliminary report. Am J Phys Med Rehabil 78: 19-23, 1999
2. Fuhrer MJ, et al: Relationship of life satisfaction to impairment, disability, and handicap among persons with spinal cord injury living in the community. Arch Phys Med Rehabil 73: 552-557, 1992
3. Granger CV, et al.: Functional assessment scales: a study of persons with multiple sclerosis. Arch Phys Med Rehabil 71: 870-875, 1990
4. Clarke PJ, et al: Changes in quality of life over the first year after stroke: findings from the Sunnybrook stroke study. J Stroke Cerebrovasc Dis 9: 121-127, 2000
5. Granger CV, et al.: Advances in functional assessment for medical rehabilitation. Top Geriatr Rehabil 1: 59-74, 1986
6.
千野直一編: 脳卒中患者の機能評価 SIASFIMの実際, シュプリンガー・フェアラーク東京, 1997
7.
中里克治: 心理学からのQOLへのアプローチ. 看護研究 25: 193-202, 1992
8. Muldoon MF, et al: What are quality of life measurements measuring? Br Med J 316: 542-545, 1998
9. Hamilton BB, et al.: Interrater reliability of the 7-level functional independence measure (FIM). Scand J Rehabil Med 26: 115-119, 1994
10.
園田 茂、他: FIMを用いた脳血管障害患者の機能評価 ミ Barthel indexとの比較およびコミュニケーションと社会的認知能力の関与. リハ医学 29: 217-222, 1992
11. Granger CV, et al.: Functional assessment scales: a study of persons after stroke. Arch Phys Med Rehabil 74: 133-138, 1993
12. Granger CV, et al. Functional assessment scales: a study of persons after traumatic brain injury. AM J Phys Med Rehabil 74: 107-113, 1995
13.
新村満寿美、他: 看護時間と機能的自立度評価法FIM – FIMの定義に当てはまる看護とその他の看護とを区別して. 総合リハ26: 161-164, 1998
14.
才藤栄一、他: 脳卒中患者の新しい評価法FIMSIASについて. 医学のあゆみ 163: 285-290, 1992
15.
八並光信、他: 通院片麻痺患者のADL・保健行動・心理的状態・QOLに関する実態調査. 理学療法学24: 61-68, 1997
16. Dijkers MP: Correlates of life satisfaction among persons with spinal cord injury. Arch Phys Med Rehabil 80: 867-876, 1999
17. Kim P, et al.: Quality of life of stroke survivors. Quality of Life Research 8: 293-301, 1999
18.
米澤きぬ子、他: 脳卒中患者の退院後のADL変化を中心として. 脳卒中マニュアル エキスパートナースMook 30, 照林社, 1998, p.154-157
19.
中島恵子, : 脳卒中患者における機能的自立度評価法(FIM)の認知項目と適応行動尺度(ABS)との関係. 総合リハ23: 685-688, 1995
20. Hall K, et al.: Syllabus (definition of items) and decision tree (FAM items), Santa Clara Valley Medial Center, California, 1993
21.
園田 茂: 今、リハビリテーション医学の分野では障害手段開発の背景と現状. 総合リハ 23: 279-285, 1995

2000.10.24 Shigeru Sonoda